忘れられない人

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「俺は声をかけてもらえて光栄だよ。沙穂ちゃんに会いたかったし」 まったくいやみのない笑顔を浮かべ、もう一度グラス同士を「乾杯」とぶつけられた。そのスマートな身のこなしにさらに罪悪感がつのっていく。申し訳ない……本当に気の毒だ。 クライアントとのお見合いまで仕事に入るなんて、透さんは内心どんな気持ちだろう。 それとも、こんなのはもう慣れっこ? 口を開けばこの状況にごめんなさいと言いたくなるが、これ以上謝ってお世辞を言わせてを繰り返していても仕方がない。 「透さんがまだ独身でいらしたとは驚きました。てっきり結婚しているものだとばかり」 私がきちんと話をする姿勢を見せると、彼は少し安堵した様子で答えた。 「そう? そういうイメージなんだ。仕事が忙しくて全然、ないよ」 「でも恋人はいらっしゃるでしょう?」 なんの意図もなく質問したが、透さんは眉をひそめる。 小さくため息をついたようにも見え、私は焦りつつも、綺麗に移り変わる彼の表情に心臓がトクンと鳴った。 「恋人がいたらここにいないよ。これはお見合いだろ? 沙穂ちゃんと結婚するために来たんだよ。完全フリーじゃないとマナー違反だよね」 わっ……なんて大胆な言葉選びをするんだろう。 ここは昔と少しイメージが違う。
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