忘れられない人

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仕事上のリップサービスだと分かっていても、あの頃よりさらに素敵になった透さんに擬似的に口説かれては、くらりとくる。 完全フリーなんだ。そこで嘘をつく人ではないから本当のことだろう。 このとおりルックスも地位も完璧で、仕事もできて性格もいい。モテるのにハメは外さない慎重派だし、父に気に入られていて、美砂と仲良し。 「沙穂ちゃん。どうかした?」 どうして今まで気づかなかったんだろう。 適任すぎる。透さん以外、考えられない。 私はフォークを置いた。小首をかしげていた彼も真剣な表情になる。 「……透さん。ご相談があるんです。もしかしたら気を悪くされるかもしれませんが、透さんにしかお願いできなくて」 私にも彼にも緊張が走った。 「な、なに? もちろん聞くけど」 すぐに返事をくれたが、彼は戸惑っている。私がなにを言い出すのか見当がつかないのだろう。先ほどまでの余裕のある受け答えとは明らかに様子が変わった。 私も今から自分がとんでもない提案をするのだと思うと、唇の震えが止まらない。 「……姉と結婚してもらえませんか」
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