忘れられない人

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言った……。が、固く目を閉じて反論を待ってもいっこうになにも起こらないため目を開けた。 透さんは表情は変わらないのに魂が抜けたみたいに呆然としており、ハッと正気に戻ったかと思えば「ごめん聞き間違えかも。もう一度言ってもらえる?」と催促された。 私は今度はハッキリ、ゆっくりと告げる。 「姉と、結婚してもらえませんか」 「……聞き間違えじゃなかったようだ」 ずんと彼の目が暗くなった。 整った前髪をかきあげ、まるでタバコの煙を吐くようにフーッと細いため息をついている。 目線を私からずらし、彼は話を続けた。 「先に伝えておくけど、答えはノーだよ。でもどうして? 美砂にはすでに婚約者がいるよね」 答えは〝ノー〟か。これをくつがえさなきゃ。 それを念頭におきながら、質問に答える。 「はい。姉の婚約者は実業家の池畠和志(いけはたかずし)さんという人です」 「ああ、池畠和志。すごいね。たしか高級レストランのプロデュースで成功した人だ」 さすが、知ってるんだ。私はうなずくが、池畠さんの顔を思い出して眉間が歪んだ。 「私、あの方が気に入らないんです。お姉ちゃんと結婚してほしくない」 透さんにはなんの恨みもないのに、つい怒りのこもった口調になった。
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