忘れられない人

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彼は目を見開き、驚いている。無理もない。私はこれまでほとんど人前で感情的になった経験はなく、常に置物のような笑顔を心がけてきた。 姉が感情を表に出すから自然と私はそうではなく、姉の付き人のような存在に徹しているのだ。 透さんの私への印象もその程度だったはず。 なのにそんな私が「あの人嫌いなの」と言い出したら驚くだろう。 「どうして気に入らないの?」 透さんは冷静に、優しく問いかけた。 「池畠さんはお姉ちゃんを愛していません。オトワリゾートを手に入れるために利用しているだけなんです」 「利用している、か……。具体的な根拠は?」 「それは……ありません。でも私には分かるんです。愛はないって」 これでは支離滅裂だ。もっとうまく説明できるはずだったのに、いざとなったらひとつも嘘がつけない。 苦しいか、と胸がドキドキしたが、彼は少し考えてうなずいた。 「沙穂ちゃんがそう感じたなら、そうなのかもね」 信じてくれた! しかし透さんの表情は険しくなる。 「でもどうして俺ならいいの? 悪いけど俺だって、愛はないよ」
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