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〝愛はない〟
透さんの口から出た言葉にひんやりと体が冷たくなった。透さんでも嘘をつくんだ。
「……透さんは大学時代、姉のことが好きでしたよね」
「いや全然? 今も昔も美砂に対してそういう感情はないよ」
嘘。私は知ってる。
でも透さんは真面目だから、婚約者がいる美砂への気持ちを白状できないのだろう。
シラをきり続ける彼に認めさせるのはいったんあきらめ、話を前へ進めることに。
「これから好きになってもらえれば問題ありません。とにかく私は池畠さんより、透さんの方が何倍もいいんです」
「沙穂ちゃん、ちょっと待ってーー」
「いい方法があるんです。姉に近づくために、まずは私の婚約者になってください」
彼の反論を遮って押し通した。なにか言いかけていた透さんだが、ピタリと止まる。
「……どうして?」
慎重に聞き返された。良かった、話を聞いてくれそう。
「姉は透さんとふたりでは会わないと言っています。その状態ではさすがに池畠さんから奪うのは難しいかもしれません。でも、私の婚約者になれば別です。身内として接近できます」
透さんの顔は終始険しかったが、徐々に冷静に戻っていく。
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