忘れられない人

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特に姉の美砂には、将来、夫となる人とともに会社を継ぐという大事な使命がある。 小さい頃から決められたその役目に従い、つい最近、彼女は恋人と婚約したところ。 美砂が栗色のウェーブ髪に華やかな服装であるのに対し、私は常に黒のセミロングにシンプルな服装を選ぶ。顔のつくりにほとんど違いがなく区別しにくいため、いつしか私が進んでそうするようになった。 大事な使命を背負っている姉に不自由がないよう、私は目立たず、サポートに徹している。 「はい、紅茶。ローズでよかった?」 「うん。ありがとう」 深い色の紅茶を注いだトルコグラスのティーカップを彼女の前に置き、私は隣に座る。 お互いにひと口を飲んでひと息つくと、私が「それで?」と促し、美砂はワクワクした様子で話しだした。 「沙穂ちゃん。透くんのこと覚えてる? 三鷹透(みたかとおる)くん、東帝大の先輩の」 〝三鷹透〟 手が震え、ティーカップが音を立てた。 名前を聞いただけでその人の髪型から靴の爪先まで思い出したのに、私は「ぼんやりとね」と素っ気ない嘘をつく。
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