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なりすましとはいえ、自分の書いた手紙に応えてもらえるのは素直にうれしい。
おそらく透さんは、美砂の浮世離れした性格を受け入れたのだろう。いきなり手紙を渡すなんて不審に感じてもおかしくないのに、美砂の面白い個性を尊重し、合わせてくれている。
この文面から、そんな彼の優しさと柔軟さが見てとれた。
【俺の実家は三鷹ツアーズだから、オトワリゾートはよく知ってる。旅行業界とリゾート業界は同志みたいなものだからね。次男の俺は気楽だけど、きみはどうかな。つらいことも多いだろう?】
緩んでいた口もとが、キュッと締まった。
『つらいことも多いだろう?』という問いになぜか心が痺れる。
これは美砂へ向けられたもので、私は次女なんだからなにもつらいことはないはずなのに。こんなにもじんと沁みるのはなぜだろう。
その先には、中学・高校では空手部の主将で、ヴァイオリンは弾けないが幼少期はピアノを習った経験があり、ボランティアサークルは災害地支援に興味があって入会したのだと丁寧に書かれていた。
隣にいる美砂は送った手紙の内容が分からないせいか、あまり集中していない。それどころか私のアクセサリーケースに手を入れて「このブレスレットいいね」なんていじっている。
私はすっかり透さんの文章に夢中になり、姉を放置したまま自分のペースで読み進めた。
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