恋人みたいな時間

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◇◇◇ 土曜日。午前九時、ウォークインクローゼットの中には、控えめなセットアップと明るいワンピース、対極なふたつが隣り合ってハンガーに掛かっている。 透さんの前で気を引き締めるためにも、着ていくなら地味なグレーのセットアップにしようと決めていたはずなのに、昨夜ふいに、隣の浮かれたコーディネートを思いついてしまったのだ。 ラベンダーの花柄ワンピースにデニムジャケット。買ったはいいもののほとんど着る機会のなかったとっておきのアイテムだ。 こちらの方がロング丈のシルエットが可愛く、ふんわりとしたパステルカラーで春らしい。ここに白いスニーカーとポシェットを合わせたら、まさしくネットの特集記事に載っているお花見コーデの完成だ。 これを着ていったら、どう思われるかな。張りきりすぎだろうか。 鏡に合わせてみるとさらに恥ずかしさが増すが、そこに映る私はいつもよりどこかいい感じがする。 着飾ったって虚しいだけなのに。そう分かっていても、この期に及んで透さんにはベストな姿で会いたいという欲が出てしまうのだ。
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