恋人みたいな時間

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さらにたっぷり二時間使って内巻きのヘアアレンジと春メイクをし、小ぶりのイヤリングをつけた。 約束の時間まであれこれといじっている様子を通りかかった姉に見られ、「おめかし?」と声をかけられる。 「そんなんじゃないっ!」 姉には勘違いしてほしくなくて大きな声が出たが、今の私はどう見ても、初デートに浮かれている女だ。 「沙穂ちゃんがそういう色着るの久しぶりじゃない? すごく可愛い」 嘘だよ。明るい色はお姉ちゃんの方が似合うもん。 「そんなことーー」 「あっ、透くん来た」 美砂は遮って窓の外を見下ろす。部屋の時計を見ると、いつの間にか十一時ちょうどを指していた。 五分前には玄関で待っていたかったのに、お姉ちゃんが変なタイミングで現れたせいだ。 「パパー! ママー! 透くんが沙穂ちゃんを迎えに来たよー!」 しかも家族を呼ぶし! 恥ずかしいからやめてよぉ。 パタパタとスリッパを鳴らしてリビングから玄関へやってきた両親にも、この格好をにこやかに観察される。 玄関の扉を開けると、黒のスタイリッシュなセダンが見えた。 あらかじめ解放しておくと伝えた車庫へ綺麗に駐車し、中から透さんが降りてくるのが遠目で分かる。 ああああ。ダメだすごく緊張してきた。
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