恋人みたいな時間

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「こんにちは」 彼は玄関までやって来て、私を含めて集まっていた四人に対してまとめて挨拶をした。ガチガチに固まっている私以外の三人は、賑やかにそれに応じ始める。 特に母。「あらやだ素敵」と小さく本音がこぼれちゃってる。 透さんの私服の破壊力は母の言う通り本当に素敵すぎて、とても目を合わせられない。 白のインナーに黒のパンツ、それにキャメルのチェスターコート。服自体はザ・シンプルなのに、彼の場合は顔とスタイルが良すぎる。 まるでイケメン俳優のオフショットだ。 家族に挨拶を済ませ、そんな透さんが私の目の前に。 「沙穂ちゃん。もう行ける?」 手を差し出している。 「えっ……」 家族の前で手なんて繋げない。というか、私は透さんの手を握っていい立場にない。 躊躇していると、彼は下から私の手をとった。 「行こう」 それはエスコートというにふさわしい触れ方で、もうすでに限界突破している私の心臓がさらに暴れまわる。 王子様にしか見えない。この人と今からデートだなんて私、帰るまでに死んじゃうかも。
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