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忘れられない人
春の日。
都心に位置しながら緑にあふれ、のどかな時間が流れるこの場所に、私たち姉妹は暮らしている。
「で、お姉ちゃん。話ってなに?」
乙羽沙穂、二十四歳。
アイランドキッチンでふたり分の紅茶を用意しながら、二十畳のリビングの壁際にしきつめられたソファに座っているひとつ上の姉・美砂に声をかけた。
「こっちで話したいな。早く沙穂ちゃんも座ろう」
彼女は長いL字型のソファの真ん中にちょこんと腰を下ろし、私を手招きしている。
姉はお姫様ちっくな桜色のルームワンピース、私はそれと色ちがいの控えめな水色。
改まって話がある、だなんて珍しい。私は紅茶の用意を急いだ。
この広い一軒家の自宅で優雅に過ごす私たちは、『オトワリゾート株式会社』の経営陣一族。
オトワリゾートは曾祖父の時代に旅館として創業してから地道に拡大を続け、今や主要観光地にホテルやリゾート施設を展開する人気ブランドとなった。
私たちは仲良しで顔もそっくりだと評判の姉妹で、いわゆる社長令嬢である。
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