0:希望をばら撒く死者

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「さて」女性は視線を空から外し、一八〇度、身体を反転させた。「やぁやぁ、異世界を望む百名のプレイヤーの皆さま。ようこそ、いらっしゃいました」  両手を広げ、高らかに声を上げる女性。  真っ赤なドレスの彼女は、例えば仮面舞踏会で使われるような、華やかなベネチアンマスクをかぶっていた。たった今から、この場でマスカレードが始まっても、彼女なら問題なく対応できるだろう。 「ふふ、皆さま何が起きたのか分からない、といったご様子ですね。まぁ、美しい月夜を展望できるなんて、皆さまにしてみれば初めての経験でしょうし、無理もございませんよ」  女性は、相変わらず広間の中央に立って言葉を紡いでいる。  周囲には、彼女以外の人の姿が見当たらないのに、だ。 「この場所、いえ、今いるこの世界、というべきですかね。この世界は、そうです、ご察しの通り、皆さまが元々いた世界とは違う世界。ご存じ、皆さま大好き、異世界というものですよ」  朗らかな笑みを溢す彼女。対象に、腹部の前で組んだ指をモジモジと蠢かせている。まるで、大ホールのステージで演説を行っている最中の緊張を現す仕草のように見えるが、周囲に誰もいない現状で緊張を起こしているというのは、奇妙な話である。 「ふふっ」女性は自分の周囲をキョロキョロと見まわして、口元に手を当てる。 「皆さま、ザワザワしていますね。もっとも、このざわつきは、わたくしにしか認識できない喧騒。何故ならば、この大広間に集められた百名の皆さまは、意識こそ、大広間という空間内に存在できているものの、姿かたちは存在できていないからです」
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