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そこまで言って、女性は自分の顎に手を当てて中空を仰ぐ。ポンと手の平を叩き、つまりですね、と人差し指を立てた。
「今現在、皆さまは透明人間と幽霊をミックスしたような姿になっているというわけです。一応、主催者のわたくしの視点では、皆さまの姿を認識することができるようになっていますが、皆さまの視点からは、わたくしの姿しか見えず、しかも、いくら意見を述べようが、わたくしにも、他の人の耳にも届かないようになっています。こういった仕様にしたのは、皆さまの、プライバシー保護のためと、初回説明会を一方的、もとい円滑に進めるためでございます。ご了承ください」
女性曰く、声高らかに独り言を発していたわけではなかった。自分を取り囲む、見えない百名に向かって話している、とのことだ。が、真実を把握したとて、女性が一人で話をしている現状は、奇妙なことには変わりない。
女性は「ちなみに、幽霊要素を混ぜたのは、わたくしにも、皆さま互いにも、この舞っている雪をはじめとする様々な物体にも触れることができないからです、あしからず」と口角を上げた。「皆さまの中には女性もらっしゃるので、痴漢対策といったところです」
「さて、先も口述した通り、今宵集まっていただいたのは初回の説明会を皆さまに行うためでございます。いったい何の説明会なのか。答えは簡単、皆さんご存じ、待ちに待った、異世界転移権争奪ゲームのルール説明会でございます」
両手を広げる。声高らかに発した声は、静かなる夜天に飲み込まれてしまい、大広間内にそれほど反響しなかった。
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