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0:希望をばら撒く死者
その場所には、零れ落ちるほどの巨大な月が浮かぶ夜空から、絶え間なく、しんしんと雪が降っていた。空から舞い落ちた雪は地表面に積もり、夜空の黒と、雪の白が混ぜ合わされて、銀色の景色を作り出している。
幻想的と表現しても差し支えない、銀色の、その場所には、さらに幻想性を追加してくれる建造物が存在した。外壁が崩れ、すっかり衰退し、荒廃を極めた古城である。
青白い空、銀色の大地、月明りと淡く舞い落ちる雪に装飾された古城。雪が舞い落ちているからこそ実物だと理解できるが、仮に、この情景に雪が降っていなかったら、一枚の絵の中に入り込んだのだと錯覚してしまうかもしれない。
この場所はそれほどまでに美しく、そして、時という概念にすら置き去りにされたのではないかと思えるほどの静寂に包まれていた。
忘れられた雪原の古城、といったところだろう。
そんな古城の一室。
「かつてこの土地は、雪も降らないような、温暖な気候だったのですが」
繁栄していた頃には、ダンスホールとして使用されていただろうと想像できる城内の大広間。シャンデリアでも飾られていただろう天井は、崩れ落ちてしまい、屋内にいながらにして夜空を展望できるようになった大広間に、程々に活気が含まれた女性の声が響いた。
広間の中央。積雪によってできた白い絨毯の上に、鮮血のように真っ赤なドレスを身に着けた女性が、夜空を仰ぐようにして立っていた。周囲の雪にも負けぬくらい美しい白髪のミディアムヘアに、赤薔薇の髪飾りを付けた若い女性だ。足元には、麻の小袋が転がっている。
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