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2.真奈美
それからも俺は女遊びを続け当時本命だった理沙ともあっさり別れると三十歳半ばで上司の娘である香織と結婚した。出世目的だ。結婚自体には何の期待もしていなかった俺だが娘が産まれると世界が変わった。
(うわぁ、ちっちぇえ)
小さな小さな手で俺の指をぎゅっと握り締めてくる。急に愛おしさが俺の中に広がった。娘には真奈美と名付けた。
「あなた、ちょっと抱っこしてやってちょうだいな」
妻の香織が閉口した様子で俺に真奈美を預ける。
「よぉし、よぉし、パパがいいよなぁ?」
我ながら気持ちの悪い猫なで声で娘をあやす。
「まったく本当にあなたべったりねぇ。嫌になっちゃう」
頬を膨らませる香織に俺は優越感を覚えつつニヤニヤと笑った。
「ま、女同士で俺を取り合わないでくれよ」
それからしばらくは平穏で幸福な時間が流れた。ああ、俺も成長したもんだな、なんて思ったものだ。浮気の虫もすっかり鳴りを潜めている。
子供の成長は早い。真奈美もずいぶん言葉が話せるようになり自己主張も強くなっていった。そして、随分と面変わりした。子供の顔は変わるものだとわかってはいたがそれにしても、である。俺と香織に少しずつ似てはいるのだが、何というか俺たちにはない独特な雰囲気を纏っていた。
「お前、実は整形してたんじゃないのか?」
思わずそんなことを言って妻を怒らせもした。だが散々怒った後で香織自身も首を傾げた。
「でも、確かに私たちとちょっと雰囲気違うわよね。何だろうね」
まぁそれでも目の中に入れても痛くないほどの可愛い娘に変わりはない。俺は真奈美にたっぷりの愛情を注ぎ真奈美はますます俺に懐いた。いや、懐くというよりもそれはむしろ“執着”に近かった。常に俺の後をついてまわり、最近ではまるで女房のように俺の世話を焼こうとさえする。おままごとで俺に手料理を振舞うのが今一番真奈美の好きな遊びだ。
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