セミコロナ

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セミコロナ

 ある公園に二本の大きな桜の木がありました。その桜の木は毎春、大きな大きな花びらを咲かせました。  しかし、今の季節は夏でした。花の代わりに新緑たっぷりの葉を咲かせていました。  そのそれぞれの桜の木の幹に、対になるように二匹のアブラゼミがいました。  彼らは何か話しているようです。 「フゥ……今日も暑いなぁ」 「毎年こんなもんじゃない?」 「いや、俺等、一ヶ月しか生きられないし、毎年も何もないだろ」 「そうだねー」 「でも、いつもより子どもとかが少ない気もするけどなー。知らんけど」 「ああ、アレじゃないかな。なんか人間に有害なウィルスが流行っているらしくて」 「へぇ、そうなんだ」 「外出とかあんまりしてはいけないんだって」 「誰から聞いたん?」 「この桜の木から」 「ああ、なるほど。今も聞ける?」 「今は寝てるから無理だねー」 「そう。でも子どもが俺たちを捕まえないからこれはこれでいいな。ちょう平和」 「だねー」 「ウィルスは俺たちに関係ないしなー」 「だねー」 「寿命ギリギリまで生きてやるぜ」 「だねー」 「で、お前はあとどれぐらい生きれるのさ?」 「………………」 「どれぐらい?」 「…………………………」 「聞いてる?」 「……………………………………」  一匹の蝉が片方の木を見ました。そこにはもう一匹の蝉の姿がありませんでした。  一匹の蝉は片方の木の下を恐る恐る見てみました。  地面には先ほどまで、自分と話していた蝉がいました。動きません。ピクリとも動きません。彼は死んでいました。 「これで何匹目かな……。でも生きていかなくちゃな……」  そう悲しく呟いた蝉は、澄み渡る青い空の中に飛んでいきました。蝉の姿は見る見るうちに青空の中に溶けていきました。                                 (完)  
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