一人の時、聞こえる囁き

2/7
前へ
/8ページ
次へ
 それでもアイツはふてくされたり落ち込んだりせず、みんなのアドバイスに感謝しながら謙虚に耳を傾け、すぐに改善し更に腕を上げた。  それだけに留まらず、アイツはみんなのミスやエラーをさりげなくフォローして、それを恩に着せたりもしないイイ奴だった。  だから尚のこと、(しゃく)(さわ)ったんだよな。 ――コイツがイヤな奴なら、思い切り軽蔑してやる事ができたのに!――  って。  しばらくしてアイツが姿を消したときは、目の上のたんこぶの腫れがすっかり引いたみたいで、お前せいせいしたろ。  もう、劣等感に苦しまずに済むんだからなあ。アイツが目障りだったんだろう?  頭の中を占める、アイツという存在の割合が少しずつ小さくなって、みんなと楽しくどんぐりの背比べをしていた頃、突然飛び込んできた忌まわしい(しら)せ。   アイツが小さな成功を収めたっていう報せを受けたとき、お前は目の前が真っ暗になった。  次にお前を襲ったのは、激しい怒り。 「あんなの全然大した事ない!」  ってムキになって否定してたな。  お前はまだ何の成功も収めちゃいないから、負け犬の遠吠えだ。 「ふーん、別に大した事じゃないだろ」  って必死に平静装ってる奴もいたっけ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加