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私は元来実直で勤勉な一地方公務員に過ぎなかったのだが、このことをきっかけに大きく運命が変わったのかもしれない。
ある朝私は職場に一分遅刻をしていった。上司が無言で手招きをして私を呼んだ。私は上司の前に立たされ、同僚達の前でくどくどと遅刻の理由を説明させられる。私は屈辱を感じながらもどこか投げやりで自虐的な快感を味わっていた。私の意識からは現実感というものが次第に失われていったようだった。
私自身はたいして何も気にしていないつもりだったのだが、その後書類の作成などをしていると、どこからか〈ザマーミロ、ザマーミロ〉という声が聴こえてくる。それが空耳であることは私の理性には分かっているのだ、しかし、感情はそうではなく一人歩きを始める。私はたまらず周囲を見回した。私の前には後輩が一人座っているだけだ。
「何か言ってるだろ!」私は思わず掴みかかってしまった。
「何も言ってないよ!」後輩は意外にも怯むこともなく言い返した。
私は手を放した。そう、気のせいであることは分かっていたのだ。私には自分が間違っていることは分かっていたのだ。だが、感情が勝手に走り出すのだ。私は自分のしたことに愕然となった。あとのことはよく憶えていない。
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