恋のゆくえしれず

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          6  夜、風呂場でシャワーの前に腰掛けて髪を洗っていると、シャワーの水の中から〈ザマーミロ、ザマーミロ〉という声が聴こえてくる。私は考えていた──これは空耳なのだ。幻聴とは少し違うようだ。実際の物音などを人の声と聞き違えているのだ。だからこれは幻聴というよりは錯聴と言うべきものなのだろう──。  理屈ではそう理解しているものの、感情はどうにもならないのだ。私は絶えず〈ザマーミロ、ザマーミロ〉という声に悩まされイライラするようになった。空耳であると言い聞かせてもイライラするものはするのだからしょうがないのだ。私の精神はかなり荒廃し始めたようである。
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