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7
私はレイ子との結婚すら本気で考えていたのだ。レイ子にそれとなくそのような意味のことを告げたこともある。それがいけなかったのだろうか。若い私は余りにも単純で未熟過ぎたのかもしれない。それに一旦断りが入ると、今度は心の中に様々な逡巡が巻き起こり始めるのだ。──オレはレイ子が好きだが本当に愛しているのだろうか。ちょっと恋人同士みたいな真似がしてみたかっただけなのではないか。でも、こんなに胸が痛くなるほど想っているのは本当なんだよ。こんなに恋い焦がれているのだよ。でも、彼女とオレはひょっとすると全然似合わないのではないか、うだつの上がらないオレに較べると彼女はいい女過ぎるのではないか。でも、彼女がみすみす他の男に奪われてしまってもいいのだろうか。いやいや、すでに彼女に対しては決定的な幻滅を味わったのではなかったか。もうこれは終わったことなのだ。彼女の方から付き合いを断ったのだ。もうこれ以上言い寄っても無駄なのだ。でも、なぜこんなに胸が苦しいのだろう。もう好きでもないと思っているのに、なぜこんなに胸に穴が空くような気持ちになるのだろう。でも、でも、でも──。
いつまでもベッドの中でくよくよと思い悩んでいる私の耳にまた〈ザマーミロ、ザマーミロ〉という声が聴こえてきた。
また〈ザマーミロ〉か、たまにはなんかいいこと言ってみてくれよ、私は心の中で声に呼び掛けていた。
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