4話

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4話

 翌日、22時。 「もしもし、俺。」 「もしもし、私。」 「お疲れ。」 「お疲れ様。」 「今日はどうだった?」 「そう!今日ね、仕事でトラブルがあって大変だったの!」  いつもの会話。いつもの彼。でも私はいつもと違う。 「じゃあ、おやすみ。」  電話が終わる。今日が終わる。終わらせたくない。ずっとこのままでいたい。 「ねえ?」 「ん?」 「あのね…。」 「何だ?何かあったか?」  『会いたい』  言いたいことを思っただけで胸が苦しくなる。涙が溢れてくるなんて。 「何だよ、どうしたんだよ。」  泣き出しそうな心を静める。会話を続けなくちゃ。私は普通を装うとする。でもその想いと反比例。涙が落ちてしまった、言葉と一緒に。 「…あいたい…。」  彼のため息が、遠くから聞こえる。きっと一瞬、彼はスマホを顔から遠ざけた。 「…今は会えないこと、わかってるだろ。」 「わかってる…けど…。」  わかってる。わかってるよ。でも、会いたい…。 「私も行けばよかった…一緒に…。一緒に、名古屋に行けばよかった…。」 「そんなこと、今言ったってどうしようもないだろう。」  ついこぼしてしまった。どうしようもないと自分でもわかっていることを。そんな自分に腹が立ったのに、彼に八つ当たりをしてしまう。 「私と…会いたいと思わないの…?会えなくても、何とも思わないの…?」 「(すみれ)…。」 「(あらた)はどう思ってるの!」  声を大きくした私はすぐに気付く。なんて子供、なんてくだらない。彼のつくため息がまた聞こえた。 「何とも思わなくねーよ…。俺だって…。」  『俺だって』、何? 「…でも仕方ないだろ…。…今は、我慢するしかねーんだよ…。」  彼のか細い声。初めて聞く、彼の弱音。 「二度と会えない訳じゃない…。だから泣くな。」  私は必死で涙を堪えた。彼も何かに堪えている。そんな気がした。  その後いつものように『おやすみなさい』を言って、一日が終わった。  彼は私に怒ってなんかいなかったし、冷たさも感じられなかった。ただ、感情的な私に対して、何かを考えているような彼。それがもどかしい。もどかしくて、悔しい。悔しくて、悲しい。  言わなきゃよかった、『会いたい』なんて。  こんなにも、後悔と罪悪(ざいお)。こんなにも、私は弱い。自信も自分も崩れそう。  彼はどんな表情(かお)をしてたのだろう。私はどんな表情(かお)をさせてしまったのだろう。  怖い。早く寝てしまいたい。なのに眠れない。眠れそうにない。  なのに、なぜ?私は彼と手を繋いで歩いている。人混みの中、ぴったり肩を寄せて歩いていた。どれだけ歩いても、どこまで行っても、周りには人が沢山いる。みんな楽しそうに笑っていた。笑顔で溢れている。愛に満ちていた。  コトン 「…はっ…!」  手からスマホが落ちた音で、私は目が覚めた。ゆっくり体を起こす。こんな時に床でうたた寝なんて。 「夢…。」  私は少しの間、呆然とした。夢と現実。彼の大きな手。変わってしまった生活スタイル。様々なものが頭の中を巡る。  床に落ちたスマホを手に取り、私はようやくベッドに入る。スマホを握り締めながら眠りについた。
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