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『それでも、お一人で居るよりはいいのかと思って。』
触れることは、決して出来ない。
けれど、まるで現実のようにそこにいて、昴に微笑みかける。
『あと、…』
と彼女はダイニングのテーブルを指さした。
昴の向かいに食事が用意されている。
「君、食べられないだろう?」
『はい。だから、お食事もホログラムで。一緒に食べているような気持ちになりませんか?』
昴よりも、背の低い衣舞がそう言って、緩く首を傾げる。
「衣舞、君を抱きしめられるものなら、今、思い切り抱きしめたい気分だよ。ありがとう。一緒に食べる?」
衣舞はとても、嬉しそうに笑った。
タブレットの中とは違う、笑顔だ。
『はい!』
今まで、昴はずっと一人で食事をしていた。
目の前にホログラムではあるけれど、人が座って時折、昴に笑いかける。
『卵、それくらいの硬さでいいですか?』
「うん。とても、好みだな。」
『良かった…。両面焼いたり、も出来るんですよ。』
「そうなんだ…。」
たしかに、タブレットの衣舞にリクエストをしたことはない。
「じゃあ、明日はその両面焼いたの、食べてみたいな?」
『分かりました!じゃあ、そうしますね?』
ホログラムの食事のはずだが、衣舞のフォークと皿が触れ合えば音がするし、本当に向かい合って食事をしているかのようだった。
それだけで、昴はとても心が落ち着く。
『今日は、どうされますか?』
「研究の続きをしようかな。」
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