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『お手伝いしますね。』
そう、今までだって『EVE』は手伝ってくれていた。
なのに、声を掛けられることが、こんなにも嬉しい。
「ありがとう。助かるよ。」
食事を終え、研究室に入ると、あとから衣舞が入ってきた。
昴と同じように、白衣を着ている。
「白衣…」
『あ、ホログラムなので、必要ないと言えばないんですけど…』
その姿が可愛らしくて、昴は笑ってしまう。
「いや、可愛いよ。似合っている。」
『昴さん…、そんな風に笑うの…、初めて見ました。』
「それは、一人で笑っていたら、おかしいだろう?僕も久しぶりに笑ったな。何だか、気持ちが軽くなったよ。」
『でしたら、良かったです。』
衣舞はふわりと笑う。
それからは2人で、出来ることをした。
観測室と呼ばれる、屋上のドーム状の施設は、アクリルガラスで作られており、一面に瞬く星空を360度見ることができる。
そこでは、本格的な研究をすることも出来るけれど、昴は、その専門家ではないので、今は、機材は撤去してあり、ふわふわの絨毯がひいてあるだけだ。
だから、そこで、2人で横になって取り留めのない話をするのが楽しかった。
衣舞は、当然色んなことを知っていたし、昴は誰かと交流できて、会話出来ることが、これ程幸せなことだと知った。
そして、いつしか、昴が真珠を見に行くことは、なくなっていた。
何年かが経過して、昴にも寿命が来て、その瞳を閉じた時、
「ありがとう、衣舞。」
彼はそう言った。
寂しい、とはこういう気持ちかもしれない、と衣舞は思った。
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