突然の命令

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給料にも不満はないし、私を評価してくれて仕事をくれる上司もいる。学生時代からお世話になっているから顔見知りの社員も多い。 正直、私には今の会社をやめる理由がなかった。 「今すぐ返事が欲しいわけではないから、じっくり考えて答えを出してくれないか。でも、こちらが本気で君を欲しいと思っていることは忘れないでほしい」 「……私には勿体ない程のお言葉です。ありがとうございます」 すごく迷った。この会社に残って、ここで出世を目指すか。新しい会社で自分の果たす役割を見つけるか。 迷って出した結論は、会社を移ることだった。 「そうか……。残念だが仕方ないな。ナナセには本当に期待していたし、ずっと一緒に働きたいと思っていたよ」 「ありがとうございます」 会社を辞めることを伝えた時に言われた上司の言葉で、ここで過ごした日々が綺麗な思い出に変わったような気がした。 ヘッドハンティングを受ける決断をしたのは、勿論ここまで来てくださった方の言葉が響いたということもあるけど、やはり私は日本人で、日本で仕事をしてみたいという気持ちが生まれたからだ。 日本を経つ時には全くなかった考えだけど、社会人になった私は考え方が変わっていたらしい。 こうして、私は18歳から25歳までを過ごしたアメリカから帰国するに至ったのだ。
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