-プロローグ-

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-プロローグ-

 2頭立ての馬車が林の間を駆けていく。蹄と車輪の音、ガタガタと続く不規則な振動に、身体は疲れても眠りは訪れない。 「ルイス、ちったぁ寝ておけ。着いたら、忙しくなるぞ」  斜め前の濃紅のシートに深く身を沈めたレナルドが、見かねたように口を開いた。日焼けした褐色の肌を切り揃えたひげ面が覆い、表情の読めない顔。後ろに撫でつけていた黒髪が乱れ、閉じた瞼の辺りまで隠しているが、気配で僕が起きていることを感じ取っているのだろう。 「分かってる」  艶のない漆黒のマントを寝具代わりに掛けているため、そこだけ大きな闇が溜まっているようだ。 「休める時に休むのも、責務の内だ」 「……ああ」  厳しい言葉だけれど、それが僕を思っての優しさだと分かるから、大人しく従った。姿勢を崩してシートに深く身を預け、真似るように自分の白いマントをバサリと胸まで引き上げた。寝顔を見られるのは恥ずかしいので、ドアの方に顔を向けると、ちょうど窓の中に夜空が填め込まれていた。大小様々な星がひしめき合っている。  キラリ、と1つ大きな星が瞬いた。あ、と思った瞬間、星は光の痕を残して北へ消えた。たった今、この国の誰かが亡くなったのだ。星の大きさと光の強さから、それなりの地位ある貴族に違いない。  ――冥界の女神(ノートレ)の御許に  名も知らぬ死者に祈りの言葉を捧げ、目を閉じた。流星は嫌いだ。人の死を意味するから――。
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