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-流星群-
「ハンナ、星が沢山動いてる。みんな、どこに行くの?」
寝室の張り出し窓を開けて、待っていた。そろそろ、来る筈だ。ここ数日、毎夜、黒々と闇に沈んだ森の中から、黒い馬が駆けてくる。その背にはいつも、黒いマントの紳士が乗っている。影のように現れる姿を、3階から密かに眺めるのが好きだった。
ところが、この夜はいつもの時刻になっても紳士は現れない。退屈に思って空に視線を投げれば、燦然と輝く星達が数多、北を目指して動き出していた。大きな星も小さな星も、あるものは早く、あるものはゆっくりと、光の糸を引きながら、いずれも北の方向に流れている。
「まぁ……なんてこと……!」
身の回りの世話をしてくれているハンナは、僕の傍まで来ると、空を見て真っ青になった。
「ルイス様、離れてください。急ぎませんと、これは――もしや」
「あ、来た!」
彼女にギュッと抱き締められた拍子に、視界が傾ぎ、地上が見えた。影の紳士が森を抜けて向かって来るところだ。
けれども、今宵は単騎ではなかった。紳士の後ろから、もう一騎、同じような影が従っていた。
トントン、トントン!
やや強いノックが連打される。
「ルイス様、お休みのところ、申し訳ありません」
執事長の低い声が聞こえると、ハンナは一層強く僕を抱き締めた。
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