-流星群-

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 慌ただしく寝間着を脱がされて、下着の上に質素な若草色のドレスを着せられた。背中までの銀の髪は、左右に分けてザックリと編み、リボンで結ばれる。ドレスの上に紺の外套を着たところで、ノックが鳴った。 「失礼します。エッケルト公の使いで参りました。パドルーと申します。ルイス様は、今夜の内に、西の館へお移りいただきます」  あの影の紳士だった。マントの下も黒衣を纏い、見上げる身長は2マルトはあるだろうか。この屋敷の誰よりも高く、肩幅も広い。身に纏う気品から貴族の出だとは思われるが、厚い胸板と太い四肢からは軍人の雰囲気を感じる。威圧感がないのは、艶やかな黒い瞳が思いがけず優しげだからだろうか。 「父の命なら仕方ありません。貴方が供を?」 「いえ、残念ですが、私はまだ諸用が。ルイス様には、この――甥のレナルドが命に代えても御守りいたします」  影の紳士の後ろから、一回り小さな、それでも屋敷で見る大人達よりは大きな影が、ヌッと現れた。パドルーと同じ黒衣に黒マント。不機嫌そうにしかめた眉は太く、黒髪を短く切り揃え、ギロリとこちらを見下ろす瞳は、不遜な輝きを放っている。褐色の肌といい、異国の血が入っているのかもしれない。 「レナルドだ。トットと行きましょうや、坊ちゃん」  すぐ隣のハンナが、まだ青い顔のまま、ギュッと僕を抱き締めた。 「こら、お前は!」  パドルーは、彼より10歳は若く見える青年の後頭部をバシッと叩くと、そのまま頭を掴んで、グイとお辞儀させた。 「ってぇよ、叔父貴っ!」 「すみません、ルイス様。態度は悪いですが、腕は確かですので。急ぎましょう」 「……分かりました。レナルド、頼みます」 「ああ。任せとけ」  ニヤリと笑むと、戸口に向かって踵を返した。  パシッ。もう一度飛んだパドルーの拳を、レナルドは振り向かずに掌で受け止めた。  
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