-星託-

1/3
前へ
/9ページ
次へ

-星託-

 森が燃えている。紅い空の中を、鳥達の黒い影が右往左往、逃げ惑っている。炎に木々の枝葉が次々と飲み込まれ、狂ったような獣の咆哮が響く。熱い――火の元は、どこだ? 『ワアアアァァ……!』  背後から歓声が上がる。振り向くと、燃え盛る紅い波に飲まれる、黄色い建物が見えた。あれは東方の古都ディマにある宮殿(ビンゴルフ)だ。その周囲を幾つもの旗が翻っている。銀の雨に黒竜のシルエット。あれは、隣国の――。 「ハアアアァ……ァアアッ……!」 「ルイス様! ルイス様っ!」  視界から紅い光が薄れていく。ゆっくりと暗くなると、ぼやけた焦点が整い、心配そうに見詰めるアンナの青い瞳と合った。  覆い被さるように覗き込んでいる彼女の後ろに、天蓋が見える。ここは、自分の寝台だ。 「……炎が……ゴールドベルクが攻めてくる……」    びっしりと汗をかいている。唇が重く、舌が上手く回らない。必死で伝えると、彼女の瞳が強張った。 「まさか……ルイス様」 「ディマが襲われる……森も炎に包まれて……」  恐ろしい夢を見た。身体は熱いのに、まだ震えが止まらない。いや、夢のせいなのか――目覚めたばかりだというのに、全身に力が入らない。 「ルイス様、お待ちを……只今、イザイ様をお呼びします!」 「……まっ……て……アン……ナ――」  苦しい。声が掠れる。汗も震えも止まらない。視界が揺れる中、深い沼に引きずり込まれるように、意識が離れた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加