第一部 欲と理性

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第一部 欲と理性

 人間には『欲』があります。  食欲、性欲、睡眠欲といった生存本能に基づく三大欲求の他に、物が欲しいという物欲、お金が欲しいという金銭欲、他人に認められたいという名誉欲や自己顕示欲もあれば、やらなければならないことをサボりたいという怠惰欲といったものまで、実に様々な欲を持っています。  しかし、人間は当然のことながら欲だけで生きているわけではありません。人間はサバンナで生きるライオンなどと違い、個ではなく集団によって行動して秩序ある生活圏を築く社会的動物であり、欲を『理性』で抑え込むことによってお互いの安全や安心を確保しながら集団生活を送っているわけです。  では理性とは何か。理性の基となるものは何かと考えたときに出てくるのが『社会教育』と『法律』です。  社会教育は人間が成長していく過程において自然と身についていくものです。両親から、学校から、地域のコミュニティから。最初はどんなに無知で幼い子どもであったとしても、人と挨拶をして他愛のない会話を交わして生活を共にしていくことによって社会のルールを覚えていく。それは人間に備わった基本的な能力であるともいえます。そしてそれを補強しているのが法律です。  例えば、人が人を殺すと殺人罪で逮捕されます。それは法律で人を殺してはいけないと定められているからと一般常識として人を殺してはいけないと思い込んでいるからです。  しかし、戦争が起こって兵隊の一人として戦場に出たとします。そこで敵対する兵士を持っていた銃によって殺害したとしたら、どうなるでしょう。  このケースでは罪にはなりません。  でも、白旗を上げた兵士を殺害したり、無抵抗な民間人を殺したり、民間人の物を奪ったりすると、罪に問われます。  なぜか。それは国際法があり、軍法といった法律があるからです。  さて、ここで犯罪というものを考えていく要因が揃ってきました。  理性と欲。そして社会教育と法律。犯罪を犯罪学として考えていくときの基礎となる要因です。  では罪にはどのようなものがあるでしょう。  殺人、窃盗、横領、放火、誘拐、強姦、収賄。それ以外にも覚せい剤やコカイン等の違法薬物使用や所持、悪友たちと複数のバイクや車に乗って一般道をけたたましい騒音を響かせて走る集団暴走行為、SNS(ソーシャルネットワークサービス)等での閲覧数を増やすために行うバイトテロ。  事件の大小はあるにせよ人間は色々な罪を犯します。そこで判断の基準となるのが、理性や欲を起因とする『人間心理』と、社会教育や法律といった『ルール』になってくるわけです。  犯罪を分類していくと、『社会教育が不十分であったがゆえに起こったもの』、『法律を知らなかったゆえに起こったもの』、『社会教育や法律も理解していたが起こったもの』の三種類に分類できます。もちろん一番多いのが三番目の『社会教育や法律も理解していたが起こったもの』です。  例えばお店に欲しい商品が並んでいたとします。  それをこっそりと盗んでしまえば万引きという窃盗罪。盗んだところを店員さんに見られてしまって追いかけてきた店員さんに怪我をさせてしまったら傷害罪。もしも殺してしまったら殺人罪。車で逃走して信号無視をすれば道路交通法違反ですし、途中で何かを壊してしまったら器物破損、呼び止めた警察官の制止を振り切ってしまえば公務執行妨害、人質をとってどこかに立て籠れば拉致監禁。最初は窃盗という小さな犯罪だったのに、いくつもの罪が重なって大きな犯罪となってしまう。  このように犯罪者は複数の罪を重ねていく傾向があります。
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