友情の時限爆弾

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友情の時限爆弾

「未知子!開けて!開けて!」 「無駄よ麻里、あなたは私の彼氏を奪った!その罪を償いなさい… ほら、5分なんてあっという間よ?」 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ とある日の23時50分ーー 麻里は高校時代の親友だった未知子に母校の高校の体育倉庫前に呼び出された。 「悩みがあるの、私達がいつも遊んでいたあの体育倉庫前に来て」 というメールの内容。 (こんな時間に呼び出すなんて、余程のことだわ!) 「元親友」の一大事だと思い、夜中にもかかわらず麻里は家を飛び出して走って母校に向かった。 卒業して1年、未知子は就職し麻里は大学生となっていて、卒業以来連絡を取ることも会うこともなかった。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 呼び出された場所に到着すると、挨拶もなしに未知子は麻里のバッグを奪い、 体育倉庫の中へと突き飛ばして外から鍵をかけた。 (未知子はあの事…ずっと恨んでたのね…!) 未知子には彼氏がいた。 しかし、彼は未知子の親友の麻里に心変わりをしてしまい2人は別れることとなったのだ。 しかし麻里にとっては特にタイプでもないため、彼からの告白を受けても付き合うことはなかった。 だが、未知子とは元の関係には戻れずに卒業となってしまったーー 麻里にとっては逆恨みも甚だしいが、自分は余程恨まれていたのだろう。 「開けて!」と何度扉を叩いても麻里の願いは虚しく、もう朝になるまで待つしかないと思い反抗をやめた。 「麻里、諦めちゃった?けれど私は甘くないわ。 よく聞きなさい、この体育倉庫には時限爆弾があるの。」 「?!ひぃっ!!」 倉庫の明かりをつけて足元を見ると、両手で抱えられるくらいの大きさの、立方体型の物体があった。 真ん中には数字が赤色に点滅していて、表示は「05:00」となっている。 「よく見て?タイマーが5分でセットしてあるの。 そこに、赤、青、黄、オレンジの4色の導線があるでしょう? 4本、順番通りに切れたらタイマーは止まる。 親切にハサミも置いておいたから、それを使って爆発を止められたらここから出してあげるわ。」 「未知子、許して!私死にたくない…」 「大丈夫、ヒントを壁に貼り付けておいたわ。 私に命乞いしてる暇があったらさっさとヒントから順番を導きなさい!さ、スタートよ!」 タイマーがピーーッと鳴り、表示は04:59…04:58…と無情にも進んでいく。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 麻里は恐怖により顔が涙でぐしゃぐしゃだ。 袖でゴシゴシと涙を拭い、あたりを見渡す。 壁に紙が貼り付けられている。 そこに書いてあったのは、おそらく「ヒント」だった。 「 S → W → T → M 」 (何これ…全然わからない…) 命がかかっているという恐怖で、全く頭が回らない。 (ローマ字?赤は英語でREDだし、青は英語でBLUEだし…関係ないじゃない…) 時限爆弾の隣に転がっていたハサミを持つ両手がブルブルと震えた。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ チッチッチッ…と鳴るタイマー。 表示は既に「03:06」の数字を刻んでいる。 「未知子!お願い!もっとヒントをちょうだい!こんなローマ字だけじゃわからないよ!」 「ヒントは1つだけじゃないわよ、辺りを見渡しなさい。」 言われた通り見渡してみるが、ポールやサッカーボールや野球バットなどが乱雑に置かれていて…あまりに情報が多い。 (こんなの1つ1つ調べている暇はない…それに未知子は、ヒントは…壁に「貼り付けた」と言っていた…) すると、奥の方に今月のカレンダーが貼られているのが見えた。 (今日の日付は……えっ?あぁっ?!) 麻里はある「重大なこと」に気づく。 だが、その前に…謎を… (SにWに………あぁあなるほど!!) タイマーは既に残り0:15となっていた。 麻里は1本1本、慎重に導線をハサミで切っていく。 ピーーーーーーー!!!!! タイマーは0:03で、ピタリと止まった。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 「おめでとう!!麻里!!よくやったわ!!」 体育倉庫の扉が開き、笑顔でパチパチと拍手をした未知子が麻里の元に歩み寄る。 緊張から、はぁ…はぁ…と息を荒げたままの麻里。 ハサミを握りっぱなしの手には汗が滲んでいた。 「謎、解けたのね?」 「…導線の色を曜日に置き換えたの。 赤は火曜、青は水曜、黄色は月曜、 オレンジは少し悩んだけど、太陽の色をオレンジで表すこともあるから日曜かな、と。 あとは曜日を英語に直して頭文字通りに並べれば…」 「オレンジ→青→赤→黄 というわけね、やるじゃない…」 未知子がニコリと笑った。 「未知子!私をこんな目に遭わせて気は済んだの?!」 まだ心臓の嫌な高鳴りが収まらぬまま、麻里は問う。 未知子はフッと目を伏せ、 「いいえ、気なんて済まないわ…」 時限爆弾に手をかけた。 「な、何?!!」 「ハッピーバースデー!麻里! 中々会えなくてごめんなさい、プレゼントよ!」 未知子は時限爆弾の、タイマーと導線のついた部分を開ける。 どうやら箱になっていたらしく、中には… 「ケー…キ…?」 時刻は丁度0:00になっていた。 そう、本日は麻里の誕生日。 「未知子……!」 ホッとして緊張が解けたこと半分、 そしてこみ上げてきた嬉しさが半分、 麻里は大粒の涙を流して未知子に抱きついた。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 「ありがとう!ありがとう!未知子!会えなくて、卒業式の日もちゃんとお別れ言えなくて…ずっと寂しかったよ!!!」 「ふふ、怖い思いさせちゃってごめんね?ちなみにこれはただのオモチャよ、かなりスリリングだったでしょ? そして、麻里は何も悪くないのに色々ギクシャクしてしまってごめんね…… 私は新しい彼も出来て何も恨んでないし、ずっと会いたかったのだけど…キッカケが掴めなくて…」 「だからって驚かせ過ぎだよ!馬鹿ぁ!!」 二人は月明かりの下で、抱き合いながら友情を確かめた。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ 「私ね、今イベント企画の会社で働いてるのよ。 こういう脱出ゲームみたいなのをよく作ってるの。 今回は簡単だったと思うけど、また企画の練習、麻里に付き合ってもらっていい?」 真夜中の通学路。 こうやって毎日、2人は並んで一緒に下校していた。 懐かしさに胸を弾ませながら、麻里は答える。 「うん!本当怖かったけど、ゲームなら楽しいよね! またいつでも呼んで!あ、今度彼氏さんも紹介してよ!」 「もちろんよ。またゆっくり会いましょ。 じゃあ私はこっちだから、またね!」 「またね!ケーキ、ありがとう!」 ふふ…と、麻里は笑いながら未知子に手を振った。 ﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏ (馬鹿な子…) 未知子はニヤリと笑い、夜空に浮かぶ月を見上げた。 (許せるわけないでしょ……何をノー天気に……) 高校時代、麻里は未知子に依存していた。 だが未知子に彼氏が出来ると…二人の時間は徐々に減っていってしまった。 麻里はそれがどうしても許せず、未知子の彼氏を誘惑して一夜を共にし、未知子から彼を遠ざけようとした。 そして麻里の思惑通り彼は麻里に溺れ、未知子をあっさり捨てたのだった。 目的を達成した麻里は「勘違いしないで」と彼を振った。 麻里には2人に対して罪悪感など微塵もなかった。 自分が未知子の1番でありたかった。 ただそれだけだった。 しかし、未知子の心は麻里に戻ることはなく、女の友情はあっけなく崩壊した。 麻里の中では、寧ろ自分は「被害者」と思ってるくらいだ。 未知子は彼に捨てられたことでメンタルが壊れてしまい成績はガタ落ちし、志望した大学に全て落ちてしまった。 経済的にあまり裕福ではない未知子の家では浪人を許されず、やむなく親の知り合いのコネで就職となったのだ。 (全部…麻里のせいよ!なのに…アイツ…!) 就職した先はブラックで、毎日年上の先輩たちにこき使われる日々。 片や麻里は、幸せそうなキャンパスライフを送っていると、人づてに聞いていた。 新たに「依存先」も見つけたのかもしれない。 (あの体育倉庫、使えそうね… 次からは本物の爆弾を持って……そしていつか、麻里には「自爆」してもらうのよ。 不正解かタイムオーバーになって爆発するまで……何度も何度も謎を解いてもらうわ! 何度も何度も何度も何度も…………!!!!!) 女の友情とは、時限爆弾のようにタイムリミットがあって、いつか飛散してしまう程脆いのだろうか。 そして2人の友情が試されるような出来事があるたび、1つ1つ繊細に対処していかねばならないのかもしれない。 導線を正しく切るように… 「アハハハハ!!!!!!!」 絡まった導線を元通りに直すのは容易なことではない。 未知子の狂ったような笑い声が夜空にこだました。 END
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