15. わたしらしく

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 そんなことをつらつらと考えていたら、いつの間にか寝入ってしまい、目が覚めたときには、すでに日が高く昇っていた。  ハルさんは部屋にいなかった。彼女のバッグもコートもなかった。きっと、帰ったんだろう。やはりわたしの部屋に泊まるの、嫌だったのかな、と思う。でもそれを表に出さずにいてくれたのは、彼女の優しさなんだろう。  ハルさん、もうわたしと一緒にはやってくれないかもしれない。  XX(ダブルクロス)のショーは、これからクリスマス、年末年始と稼ぎどきだ。すっかり馴染んだ彼女のピアノ。そしてスペシャルショーで披露した、パワフルな歌声。今後は生歌も入れたいと思っていたけど、無理かもしれない。  ふぅ、と吐息をついて起き上がり、電気ケトルにお水を入れてセットし、マグカップにティーバッグを入れる。寝不足の頭はぼんやりしていて、昨日のことがまるで遠い昔のように感じた。  がちゃり、と玄関ドアが開く音が聞こえた。 「ショーコさん、おはようございます」 「お。おはようございます!」  ハルさんの声に思わず声が裏返って返事をした。ハルさん……帰ったんじゃなかったの? 「お腹すいちゃったんで、駅前まで買い出しに行ってきました」  ハルさんは、見慣れたファストフード店の紙袋を二つ持って、部屋に入ってきた。 「マフィンとホットケーキ、どっちがいいです?」 「あ、えっと、マフィン、で」 「だと思いました!」  ハルさんは、楽しそうに袋からプラスチックのフォークや紙ナプキンを出し、「ショーコさん、ブラックコーヒーで良かったですよね?」と聞くから、こくこくと肯く。ハルさんの真意が読めない……。 「よし、いただきましょう。もうお腹ぺこぺこなんです」  ハルさんは、ほかほかと湯気を上げているホットケーキに、付属のマーガリンとシロップをたっぷりかけた。 「ハルさん」 「食べましょ? おいしいですよ」  促されてマフィンを一口齧る。柔らかなマフィン生地に、卵の食感。美味しいな、と思うのは嫌な思いをした翌日でも変わらないのか、とちょっぴり自嘲気味に思う。 「ねぇ、ショーコさん。クリスマスのショーはどんな曲でやりましょうか」  プラスチックのナイフとフォークでホットケーキを切り分け、口に運びながらハルさんが言う。 「えっ……と、また弾いてもらえるんですか?」 「もちろんです。ショーコさんと過ごしたいし、XX(ダブルクロス)でみなさんといるほうが楽しいですから」 「でも、あの」  なんて聞けばいいだろう。わたしのこと、嫌になりませんか? 女の子のことを好きかもなんですよ? 警戒しませんか?
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