13. ショータイム

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13. ショータイム

 オープン前のXX(ダブルクロス)は、目が回るような忙しさだ。わたしたちダンサーはリハをしてメイク、ドレスアップ。鏡で全方位確認し、ステージ花道で客席側からのチェックもしてもらう。  厨房はわたしたちが入る前、午後イチから仕込みが始まる。バーはその少し後から仕込み。ホールは掃除とカトラリー、グラスの点検、予約のお客様のテーブル確認。  受付のリナはいつも遅刻するけど、「今日は絶対遅刻しないで」と念を押しておいたから時間ぴったりにやってきた。  わたしたちの作戦は、結局XX(ダブルクロス)全体を巻き込んだ。美香子ママに相談したら、ママがみんなに話してくれた。スタッフ全員が協力を申し出てくれたけど、実際に協力してもらうのはキキとルミカ、ボディガード二人とケイタの五人。でも、事情は知っておいてもらわないとパーフェクトな演出ができない。  今日の手筈を頭の中で何度となく繰り返す。絶対に失敗ができない。このために、タケマロとハルさんと短期集中で練習しまくったんだから。  楽屋のドアを開けようとしたとき、コートのポケットの中のスマートフォンが鳴った。ちらり、とディスプレイを確認して、ため息をつく。今日はこれで五回目の電話だ。でも、出る気はないから無視する。  少し落ち込んだ気持ちを深呼吸で調え、楽屋に入る。タケマロはすでに楽屋にいて、一生懸命付けまつげをつけているところだった。 「タケマロ、どう?」 「バッチリよ」  タケマロが親指を上げて見せる。わたしもそれに応えて親指をぐっと上にあげた。今日は急遽「スペシャルショー」と銘打って、常連でご招待の方のみでの営業だ。一見さんはお断り。そしてもちろんプログラムも、「スペシャル」の名に相応しい内容に変えてある。時間がない中で大変だったリハーサルに、思いを馳せる。 「おはようございまーす」  ルミカたちに挨拶する声が聞こえた。ハルさんだ。ハルさんはわたしを見つけると「ショーコさぁん、緊張しますー!」と甘えてきた。その甘えがまた、嬉しい。 「あれだけ練習したんですから、ハルさんなら絶対大丈夫。安心して、ね?」  楽譜を抱えて心配げにしている彼女を励ましていると、その横を通り過ぎながらタケマロが「ほんっと、こんな目立たない地味子ちゃんなのにさ、意外な才能持ってるよね」と嫌味を言う。 「その地味子ちゃんの才能に頼るのは誰だっけ?」  わたしも間髪入れずに返した。タケマロはちっと舌打ちしつつもハルさんに向けて小さな声で「あんたがヘマしたら蹴り入れるからね」と憎まれ口を叩いて衣装部屋に消えた。
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