15. わたしらしく

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「ハルさん、もう一度確認させてください。本当にクリスマスも年末年始もご予定、ないんですか」 「ありません」  ハルさんはきっぱりと言った。 「実家にいても親に嫌味言われるだけですし、だったらみなさんと過ごしたほうが何十倍も楽しいし、充実してます」 「ほんとにいいんですか」 「いいって言ってるじゃないですか」  ハルさんが笑う。そしてわたしに紙ナプキンを差し出した。 「涙、拭いてください」  そう言われて初めて気がついた。いつの間にか、泣いていたんだ。頬に触れると肌が濡れていて、慌てて紙ナプキンで拭った。 「ハルさん」 「はい」 「クリスマスのショー……どうしましょう? 何かアイディア、ありますか」 「ありますあります!」  ハルさんが前のめる。目がキラキラとして頬が紅潮している。 「素肌にパンツスーツで、ハットを斜めに被って登場っていうのはどうですか」 「それは、ええと、どういうイメージでそれなんですか」 「イタリアンマフィアです! 髪はオールバックでセクシーに決めましょう!」 「イ、イタリアンマフィア?」 「最初の曲はあの有名なマフィア映画のテーマですね、タラララララララー、で半回転するでしょ、で……」  ハルさんのアイディアを聞きながら、いつだったか美香子ママが言ってくれたことを思い出す。 「ほっとけないのよね。自分らしく生きられてない子」  わたしは今、自分らしく生きられているだろうか。バーレスクダンサーになるまでのわたしと、今のわたし……どちらが好きか、と自分に問うてみれば「今のわたし」と即答できる。  それは、周りの人がわたしを受け入れてくれたからだ。今、周りにいる人たち……色々思うところはあるし、苦手な人もいるけれども、それぞれ一目置いてるし尊敬できる部分もある。  それに、と思う。ハルさんは、もしかしたら女の子が好きかもしれないわたしを、否定せずにいてくれた。わたしに、バーレスクに救われた、とも言ってくれた。わたしはそんなハルさんに救われた。人と人の関わりって、こういうのがいいな、と思う。 「ショーコさん、聞いてます?」 「え? あ、ごめんなさい」 「もーっ、ちゃんと聞いてください! 大晦日の方はですね、派手にいきたいんですよね! ちょっとジゴロっぽい雰囲気を意識して……」  ハルさんの脳内妄想を聞きながら、復学するのは先に伸ばそう、と、心に決めた。もう少し、バーレスクダンサーでいたい。  バーレスクは不思議なダンスだ。多少下品なことも、ハプニングも許される。客を、欲を煽り、自分を煽り、普段は出さない自分を出す、情熱的で扇情的なダンス。  もう少しバーレスクで「自分らしさ」を追求していこう、わたしらしさを出してみよう。ハルさんと一緒なら、それができる……そう、信じられた。   ーー了ーー
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