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「ハルさん、もう一度確認させてください。本当にクリスマスも年末年始もご予定、ないんですか」
「ありません」
ハルさんはきっぱりと言った。
「実家にいても親に嫌味言われるだけですし、だったらみなさんと過ごしたほうが何十倍も楽しいし、充実してます」
「ほんとにいいんですか」
「いいって言ってるじゃないですか」
ハルさんが笑う。そしてわたしに紙ナプキンを差し出した。
「涙、拭いてください」
そう言われて初めて気がついた。いつの間にか、泣いていたんだ。頬に触れると肌が濡れていて、慌てて紙ナプキンで拭った。
「ハルさん」
「はい」
「クリスマスのショー……どうしましょう? 何かアイディア、ありますか」
「ありますあります!」
ハルさんが前のめる。目がキラキラとして頬が紅潮している。
「素肌にパンツスーツで、ハットを斜めに被って登場っていうのはどうですか」
「それは、ええと、どういうイメージでそれなんですか」
「イタリアンマフィアです! 髪はオールバックでセクシーに決めましょう!」
「イ、イタリアンマフィア?」
「最初の曲はあの有名なマフィア映画のテーマですね、タラララララララー、で半回転するでしょ、で……」
ハルさんのアイディアを聞きながら、いつだったか美香子ママが言ってくれたことを思い出す。
「ほっとけないのよね。自分らしく生きられてない子」
わたしは今、自分らしく生きられているだろうか。バーレスクダンサーになるまでのわたしと、今のわたし……どちらが好きか、と自分に問うてみれば「今のわたし」と即答できる。
それは、周りの人がわたしを受け入れてくれたからだ。今、周りにいる人たち……色々思うところはあるし、苦手な人もいるけれども、それぞれ一目置いてるし尊敬できる部分もある。
それに、と思う。ハルさんは、もしかしたら女の子が好きかもしれないわたしを、否定せずにいてくれた。わたしに、バーレスクに救われた、とも言ってくれた。わたしはそんなハルさんに救われた。人と人の関わりって、こういうのがいいな、と思う。
「ショーコさん、聞いてます?」
「え? あ、ごめんなさい」
「もーっ、ちゃんと聞いてください! 大晦日の方はですね、派手にいきたいんですよね! ちょっとジゴロっぽい雰囲気を意識して……」
ハルさんの脳内妄想を聞きながら、復学するのは先に伸ばそう、と、心に決めた。もう少し、バーレスクダンサーでいたい。
バーレスクは不思議なダンスだ。多少下品なことも、ハプニングも許される。客を、欲を煽り、自分を煽り、普段は出さない自分を出す、情熱的で扇情的なダンス。
もう少しバーレスクで「自分らしさ」を追求していこう、わたしらしさを出してみよう。ハルさんと一緒なら、それができる……そう、信じられた。
ーー了ーー
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