2019・1

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2019・1

 無実の罪で5年間、龍泉(りゅうせん)刑務所で服役生活を送った沼田(ぬまた)は、出所後その体験を生かし、私立探偵となる。彼の自宅兼事務所は、荒野に停めたトレーラー・ハウス。探偵料金は、1日1000円+必要経費である。  龍泉警察署捜査課の根津(ねづ)警部補は沼田の理解者だが、その上司、野上(のがみ)警部は、彼を目のかたきにしている。その他、引退したバス運転手の父親春夫(はるお)、女性弁護士の広瀬文香(ひろせふみか)、刑務所仲間の星崎(ほしざき)らの協力を得ながら、沼田は、警察が介入し難い事件を中心に活動を続ける。  2019年1月13日午前5時52分ごろ、龍泉町郊外にある砂利運搬会社事務所内で、この会社に勤めている男性会社員、松崎満(まつざきみつる)(56歳)が殺されているのが発見された。死因は首をロープで絞められたことによる窒息死だ。  事件が発覚する前の午前4時ごろ、事件現場となった事務所から離れた同じ龍泉市内のスーパーのATMを襲う窃盗未遂事件が発生しており、この窃盗未遂事件では松崎が勤める会社から盗まれたショベルローダが使われていた。   「武蔵(むさし)、どう思う?」  トレーラーハウスの中で根津が言った。 「松崎ってのは犯人を目撃してしまい殺されたんだよ」 「やっぱりそう思うか?」  根津は写真を見せた。  ⚫ガストーチ(主な用途は配管作業時のロウ付や凍結解氷に使われるが、応用で色々な用途がある)  ⚫Mサイズの手袋    ⚫国内産のマリンブーツ(長靴)の25 - 26cmサイズの足跡(遺留品ではないが、現場に残されていた足跡から判明) 「ホシはMのイニシャル?」 「武蔵、それ本気で言ってる?」 「ジョークに決まってんじゃんよ」 「この事件を解決して野上をギャフンと言わせたい」  野上は狸みたいに腹の出たオヤジだ。 「1日1000円、悪くないな?手伝ってくれるか?」 「オーケー👌」  1月16日    沼田春夫はNHKの夜7時のニュースを見ていた。  📺大相撲初場所4日目、72代横綱・稀勢の里が引退を発表。  広瀬文香は強迫性障害を患ってしまっており、そのため極度の潔癖症であった。ある日、ついに彼女の精神状態はボロボロになり、日常生活にも支障をきたすようになってしまう。彼女を心配した沼田は、彼に精神分析医の平群(へぐり)を紹介する。  文香は前橋にある平群クリニックを訪れた。小栗旬(おぐりしゅん)にどことなく似ている。   彼女の障害は10年以上前に夫と離婚したことが原因であると考えられることを告げられる。  平群は文香に、現在15歳になった娘の恵美(めぐみ)と会うことを薦める。初めは抵抗した文香だったが、自分の娘がどのように成長したのか興味を持ち、ついに彼女と2人で会うことにする。突如現れた家族にお互いに困惑する2人だったが、次第にその関係は良いものへと変わっていく。  1月17日     📺7時30分頃、大阪国際空港に着陸した羽田発大阪行きの全日空便(ボーイング787型)がトラブルで自走できなくなり2本ある滑走路のうちB滑走路が約40分間閉鎖された。乗客と乗務員にけがはなかったが、一部の便に遅れが発生した。  巨大企業ドラゴン社が開発した人工頭脳によって、人類はかつてないほどのIQを手に入れていた。しかし、高価な人工頭脳のローン返済が滞ると、ドラゴン社の回収人である頼堂竜(らいどうりゅう)が容赦なく頭脳を回収する。殺し屋の頼堂は、この日、仕事中に重傷を負う。気がつくと人工頭脳を埋め込まれ、難事件の解決を任された。ローンの返済のためにはこれまで以上に殺し屋としての仕事をこなさなければならないのだが、自分も同じ立場である相手に対してこれまでのように「仕事は仕事」と割り切ることができない。結局、返済の滞った頼堂は仲間たちから追われる羽目になる。追手門から逃げ切ることが不可能であると知っている頼堂はドラゴン社のデータを消去しようと考える。  1月18日  ドラゴン社の常務・留守礼二(るすれいじ)の元に、「子供を攫った」という男からの電話が入る。そこに息子の浪馬(ろうま)が現れ、いたずらと思っていると住み込み運転手である若林(わかばやし)の息子・(がい)がいない。誘拐犯は子供を間違えたのだが、そのまま身代金5000万円を留守に要求する。  デパート引っ越し会社の配送員に扮した刑事たちが到着する。妻や若林は身代金の支払いを留守に懇願するが、留守にはそれができない事情があった。留守は密かに自社株を買占め、近く開かれる株主総会で経営の実権を手に入れようと計画を進めていた。翌日までに博多へ5000万円送金しなければ必要としている株が揃わず、地位も財産も、すべて失うことになる。留守は誘拐犯の要求を無視しようとするが、その逡巡を見透かした秘書の銀閣寺郡司(ぎんかくじぐんじ)に裏切られたため、一転、身代金を払うことを決意する。  留守は5000万円を入れた鞄を持って、太田駅から犯人が指定した20時発の特急りょうもうに乗り込む。  🚃停車駅 編集  浅草駅 - とうきょうスカイツリー駅 - 曳舟駅- 北千住駅 - 東武動物公園駅 - 久喜駅 - 加須駅 - 羽生駅- 茂林寺前駅 - 館林駅 - 足利市駅 - 太田駅 - 木崎駅 - 境町駅 - 新伊勢崎駅 - 伊勢崎駅  が、同乗した根津刑事が見たところ車内に子供はいない。すると電話がかかり、犯人から「館林駅のトイレに身代金が入ったカバンを持ってこい」と指示される。留守は指示に従い、その後剴は無事に解放されたものの、身代金は奪われ犯人も逃走してしまう。    捜査本部に戻った根津は野上から怒鳴られた。 「逃げられましたじゃねーよ!バカヤロー!!」    1月19日  野上警部率いる捜査陣は、剴の証言や目撃情報、電話の録音などを頼りに捜査を進め、館林にある剴が捕らわれていた犯人のアジトを見つけ出すが、そこにいた共犯と思しき男はすでにヘロイン中毒で死亡していた。  源田剛(げんだごう)という元派遣社員だ。    これを主犯による口封じと推理した野上は、私立探偵の沼田に協力を頼み共犯者の死を伏せ、身代金として番号を控えていた札が市場で見つかったという嘘の情報を流す。新聞記事を見た主犯は身代金受渡し用のかばんを焼却処分するが、カバンは燃やすと緑色の煙が発する仕掛けが施されており、捜査陣はそこから主犯が留守邸の近所のアパートに住む派遣社員の財前丈一郎(ざいぜんじょういちろう)という男であることを突き止める。  財前の犯罪に憤る野上は、確実に死刑にするためにあえて財前を泳がせる。財前は横浜の麻薬中毒者の巣窟で、純度の高い麻薬使用によるショック死の効果を実験したのち、生きていると思った共犯者を殺しに来たところを逮捕される。  1月20日  📺東京・表参道で「HERO'S」というティラミスの専門店がオープンしたが、シンガポールの有名店「ティラミスヒーロー」の名称、商標、瓶詰めのデザインなどに似ている疑惑が浮上。同月22日にHERO'S側は公式サイトで謝罪文を発表し、自社が先んじて登録した商標のうち、猫のロゴの使用権をティラミスヒーロー側に譲渡すると表明した。  1月21日  📺コンビニエンスストア日本3大チェーンのうちのセブン-イレブンとローソンが女性や子供、訪日外国人客らに配慮するため、国内の全店での成人向け雑誌の販売を8月末までに原則中止することを明らかにした。その翌日、ファミリーマートも同様の方針を表明。  ちょっとしたことから文香と恵美が衝突したことがきっかけで、文香は自分が弁護士であることを告白する。そんな彼女に恵美は驚くべき提案をする。なんと彼女はイジメから守ってほしいというのだ。中3の恵美は同じ龍泉中学に通う、桃橋靖子(ももはしやすこ)遊佐陽子(ゆさようこ)からトイレに閉じ込められるなどの陰湿なイジメを受けていた。 「ママを頼らずに自分でなんとかしなさい」と、突き放すが彼女の熱意に押され、ついに弁護を引き受ける。  1月22日  📺 安倍晋三首相がロシアを訪問した。深夜にウラジミール・プーチン大統領との会談を行った。日露間の経済協力の推進、元島民らによる墓参、北方領土問題についてはソ連時代に提案された「歯舞群島と色丹島の二島返還」に基づいて平和条約を結ぶとする方針などが成されたと発表した。  夜7時過ぎ、沼田のトレーラーハウスに根津がやって来た。沼田はカレーライスを振る舞った。🍛 「CoCo壱番屋よりうまいな?」 「野上さん、何であんなに憤ってたのかな?」 「死んだ源田ってのは野上さんの甥っ子なんだ」 「ナルホド、それでか……」    1月23日  📺4時5分頃、大阪府高槻市八丁畷町で、配水管を敷設するための掘削作業中、作業員が誤って関西電力の高圧幹線を切断した。JR高槻駅周辺で、高圧幹線から電気の供給を受けている大阪医科大学附属病院など大規模な5つの施設が停電した。一般家庭への影響は無かった。  夜、夕食の後片付けをしてると星崎がやって来た。 「香ばしいニオイがするな?豚トロでも食ったのか?」 「犬みたいな嗅覚だな?」 「そーゆーオマエは猿みたいな顔してんな?」 「うるせーよ」  星崎はハッキングの名手だ。メガネとかしておらず、角刈りのスポーツマンタイプだ。  星崎はステルス迷彩の施されたドローンで松崎邸を監視していた。  画面に宵闇の龍泉町が映し出された。  1月24日  📺茨城県警察は、2004年に発生した茨城女子大学生殺人事件で、殺人と強姦致死の疑いで国際手配していた当時18歳のフィリピン国籍の元少年を逮捕した。元少年は同日午後にマニラ発の航空機で出国し、成田空港に到着、入国後に捜査員が逮捕状を執行。  沼田は太田駅前を歩いていた。新田義貞(にったよしさだ)の銅像が屹立してる。  新しい事件のため特急りょうもうで急遽、浅草に向かうことになった。依頼人の瑞巌寺善吉(ずいがんじぜんきち)は愛する娘をヤクザに殺されている。  20年前の8月7日の夜、雷門の前で蔵城(ぞうじょう)組と伊達(だて)組が銃撃戦を繰り広げた。瑞巌寺の娘は流れ弾に当たって命を落とした。 『あのとき、娘はまだ高校生だった。生きてりゃ孫でも出来て賑やかな生活をしてただろうに……俺はもう余命いくばくもない。その前に娘を殺した奴らに復讐をしたい』    伊達組4人、蔵城組4人が瑞巌寺の的だ。 『警察に居場所を聞いたが個人情報の保護とやらで教えてもらえなかった。コッチは大切な者を奪われてんのに……』  地蔵(ぢぞう)って伊達組の奴をスカイツリー近くで目撃したと星崎から情報をもらった。  列車は珍しく混んでおり、満員であった。  沼田は友人の堂ヶ島(どうがしま)に再会する。鉄道王である彼の計らいにより、沼田はなんとかりょうもうに乗り込むことに成功する。  しかし、雪のために列車は羽生駅の手前で停車してしまう。そして午後5時、トイレで裕福な証券マンの馬場(ばば)が死体で発見される。沼田は彼から命を狙われていると相談を受けたが、嫌悪感から断っていたのである。 『君ってチビだな?チビってのは大概役に立たない』そんなことを言われてまで守る必要はない。  沼田と堂ヶ島は、二等車への乗車にて捜査対象外とされた医師の備後(びんご)、車掌の豊前(ぶぜん)と共に捜査に乗り出す。備後医師の検死により、馬場は合計で12回刺されており、そのうち少なくとも3回が致命傷になるほど深かったことが分かった。「ビンゴ!」   被害者のポケットにあった止まった時計、そして容疑者たちの24日の行動による沼田の推理により、馬場は午後4時半に殺されたと判断された。死亡推定時刻は雪によって列車が停車した時間よりも前であり、積雪に犯人が逃亡した跡がなかったことが明らかになった。 「犯人はまだ列車の中にいる」  毅然とした沼田の姿を偶然乗り合わせていた遊佐陽子は見とれていた。  以上の手掛かりを元に、沼田は乗客の尋問を開始する。そして沼田は「馬場の隠された過去」を暴き出す。実は馬場は、別所組と呼ばれるマフィアの元幹部だったのだ。数年前、別所(べっしょ)とその部下は、アメリカに移住した裕福な東京人の盆戸(ぼんど)の愛人、パリスを誘拐した。  パリスは身代金が支払われた後、赤城山(あかぎさん)でバラバラ死体で発見され、犯人の一味と誤解されたボディーガードのピラルクーは拳銃でコメカミをぶち抜いて自殺し、そして一連の悲劇に疲弊した盆戸も心臓発作で命を絶ってしまった。その後、別所の共犯者は逮捕されたが、馬場本人は国外逃亡して罪を免れていた。  馬場は、正義の名の下に殺されてもやむをえないような人物だった。かといって、このまま殺人犯を見逃すわけにもいかない。果たして殺人を遂行したのは一体誰なのか? 国際色豊かな乗客たちには相互に何のつながりもないと思われたが、彼らには他の乗客を証人とする完璧なアリバイがあった。  1月25日  📺大阪地裁堺支部は、大阪府堺市南区で2018年7月、大型バイクにあおり運転をした末に車で追突し、男性を死亡させたとして殺人罪に問われた被告人に対する裁判員裁判で、殺人罪を適用し、懲役16年の判決。  理想主義的な左翼思想に傾倒する頑固なプルートと、政治的主義にとらわれない考えを持つ人気者のペイン。信条が正反対の2人は大学で出逢い、卒業後それぞれの道を進む。  日本にやって来たプルートは偶然、渋谷センター街で見かけた広瀬文香に一目惚れし恋人同士になる。学生時代から小説を書き本を何冊か出版していたペインは脚本家として徐々に認められるようになる。  しかし、ペインらがよく集まる龍泉町郊外にある映画監督の家に盗聴器が仕掛けられていたのを知ると、文香の政治思想が再燃し、妊娠中にもかかわらず同志らと政府へ抗議に行った。そのことでますます反政府的な言論が制限的になりプルートの仕事にも影響を及ぼし、プルートはふとしたきっかけで昔の彼女と浮気をする。よりにもよって学生時代の女とのプルートの浮気を知った文香は傷つき、プルートも文香の理想主義に疲れ果て、2人の仲に深い亀裂が入り始める。  📺東京都内や大阪市内の製薬会社、札幌市の食品会社、及び毎日新聞東京本社にこの日、青酸化合物が同封された脅迫状が郵送されていたことが翌26日に判明。警視庁などは脅迫未遂の疑いで捜査。差出人にはテロリストのオリンポスや、別所組幹部などの名前が記されていた。  📺千葉県警は、自宅で小学4年の女児に冷水シャワーを浴びせるなどの暴行を加えたとして、傷害の疑いで父親を逮捕した。女児は自宅で死亡が確認された。複数のあざがあり、県警は虐待を受けていたとみて、司法解剖して関連を捜査した。アンケートで「父からいじめを受けている」と回答したため、県柏児童相談所が2017年ごろに被害者を一時保護したこともあった。  1月27日  📺ジャニーズ事務所所属のアイドルグループの嵐が翌2020年12月31日をもって活動休止することをファンクラブサイト内で発表した。  文香は体から力が抜けるような感覚がした。文香は嵐の相葉くんの大ファンだったのだ。        🌃  太田市での友人のホームパーティーに招かれた沼田は、パーティーを抜け出さなければならなくなり友人の堂ヶ島を借り出したものの、慣れないマニュアルシフトに手こずった上に道に迷い、繁華街の路肩に車を止める。  粉雪が舞っている。寒さのあまりに地団駄を踏んだ。  その時、売春婦のサラに声をかけられる。高級ホテルまでの運転を頼み、1晩1万円で話し相手をしてくれるよう頼む。  ペントハウスではしゃぎながらも「体は売っても唇へのキスはお断り」というサラに惹かれた沼田は、自分が私立探偵であることを告げる。  1月28日  📺第198回通常国会招集。平成最後の通常国会となり、明仁天皇が在位中最後となる開会式出席。  📺東京都、大阪市、札幌市の製薬会社と毎日新聞社、食品会社に青酸カリとみられる白い粉末と金銭を要求する脅迫文が郵送で届いた事件で、新たに朝日新聞東京本社と都内の製薬会社3社に同様の粉末と脅迫文が送られていたことが判明、警視庁などは恐喝未遂容疑で捜査。これで同様の郵便物が届いたのは計18社にも上る。    🌇美しい夕陽だ。まるで、『太陽にほえろ!』のオープニングみたいな景色だと、沼田は思った。沼田は新宿に遊びに来ていた。    凄腕の泥棒で詐欺師でもある滝夏樹(たきなつき)は、窃盗罪で4年間服役していた龍泉刑務所から仮出所した。仮釈中の規則を無視して、新宿に住む仲間の銀閣寺に会い、服役中に企てていた新しい盗みの計画を打ち明ける。それは都内にある裏カジノ『ジャスティス』の金が集まる地下巨大金庫の現金強奪計画だった。銀閣寺からの情報でトランプ賭博の報酬、1億円が集まることを知り、カジノセキュリティに詳しい芳賀雅紀(はがまさき)ほか3人の犯罪スペシャリストが集結。ミサイル基地並の強固なセキュリティシステムに挑む。  1月29日  📺龍泉町長の赤沢勝信(あかざわかつのぶ)が2017年6月、国道の拡幅工事に伴う用地買収交渉の進展が進まないことにいらだち、部下に対して「建物に火を付けて捕まれ。建物を燃やしてこい」などと発言していたことが判明。赤沢は記者会見で謝罪し町長辞任の考えはないと表明。  📺「愛媛県知事」宛てに段ボール箱が届き、中に傷んだ1万円札の束が多くあり、数えてみると1億円程度の現金だった。同封の手紙には「何かの役に立ててほしい」という趣旨の内容が書かれていた。伝票には送り主の氏名、住所、電話番号が記載されていたが、手紙にはそれらは架空だという趣旨も書かれていた。県は西日本豪雨の復旧に役立てることを検討している。  仕事の一環として、沼田の仕事の会食に同伴することになったサラ。場所は浅草だ。  沼田から渡されたお金で会食用のドレスを買いに行ったものの、下品な装いのせいで高級ブティックでは入店を断られてしまう。しかし、見かねたホテルの支配人のおかげで、見事完璧なレディに変身する。テーブルマナーも学び、ディナーに臨む。  沼田の行動に危機感を感じた顧問弁護士の広瀬文香はサラをスパイと疑い、沼田に忠告したことから沼田は「心配要らない」と、彼に彼女の素性をばらしてしまう。サラの素性を知った文香は彼女を売春婦として蔑んだ扱いをする。 「どうせ金の為でしょ?病気とか持ってそう、近寄らないで?」  傷つき契約金も受け取らないで出て行こうとするサラを沼田は引き止め、2人は過去を慰め合う。  サラの父親はかつて東京で商社マンとして働いていたがリストラされてから人格が変わり、母親やサラを殴ったり蹴ったりするようになった。母親と逃げるように群馬に逃げて来たらしい。  その夜は映画鑑賞やカラオケを楽しむ。  沼田は尾崎豊の『15の夜』や『卒業』、サラは中島美嘉の『雪の華』を熱唱した。  精密採点で『雪の華』が90点だった。 「君は歌手でも目指した方がいいんじゃないのか?」 「からかわないで?幼い頃から、白馬にまたがった王子様が助けにきてくれることを夢見ていた」と、沼田が自らを幸せに迎えてくれないと失意したことを間接的に告げて、サラはホテルを出る。  1月30日  📺午後2時24分頃、日本原子力研究開発機構は、茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所にあるプルトニウム燃料第二開発室の粉末調整室で、放射性物質が漏えいするトラブルがあったと発表した。敷地外への漏えいは確認されず、室内にいた男性9人も内部被曝はなかった。作業員がグローブボックスと呼ばれる密閉状態の作業台で、核燃料物質の貯蔵容器を覆うビニールバッグを交換していたところ、放射性物質濃度を測る装置の警報が鳴ったという。貯蔵容器にはプルトニウムやウランが入っていた可能性があり、原因は調査中という。  警視庁の敏腕交渉人だった八十島雷太(やそじまらいた))は、1年前の人質事件で失敗を犯し心に深い傷を負ったことから交渉人を辞して、龍泉警察署の署長になった。  この日、若者3人が太田駅前で赤沢勝信が娘と一緒に高級車に乗っているところを目撃し、赤沢の豪邸に押し入ることを企て立てこもる。赤沢の邸宅は完璧なセキュリティーシステムを完備しているために、警察も容易に手を出せない。八十島は捜査課長の野上に現場の指揮を任せ立ち去るが、家族が犯罪組織に監禁されて豪邸からあるDVDを持ち出すように脅されてしまう。実は、若者が偶然籠城した豪邸の主である赤沢はその組織のマネーロンダリング(資金洗浄)に手を貸しており、邸宅には組織が必要とする機密資料が保管されていたのだ。  1月31日  📺愛知県みよし市の名古屋刑務所で、昨年12月から今月にかけて受刑者・職員合わせて300人余りがインフルエンザに感染していたことが判明。刑務所は非常事態として刑務作業を28日から一時取りやめた。  📺明星(みょうじょう)新聞が、1月12日及び19日に群馬版に掲載した芸人の、ヅラ伝馬(でんま)を取り上げた記事について、記事の大部分が朝霧(あさぎり)新聞社が2016年に発行した写真集から盗用したことが判明し、朝霧新聞は伝馬と明星新聞社に対して謝罪すると同時に記事を執筆した前橋支局の記者を含む関係者を処分する方針。   『オリンポス』のテロリスト、ポーンは軽井沢にあるアジトで昔を懐かしんでいた。  5年前に東京駅を出発した『のぞみ号』に爆弾を仕掛け、誰も殺さず殺されずに5億円をGETした。仲間のプルートやペインはポーンを完全犯罪者であるとは気づいていない。    プルート、ペイン、ポーンはコードネームだ。プルートは左翼とは何かを力説した。 「左翼と呼ばれる勢力には、多かれ少なかれ根底には専制政治や弱肉強食的な資本主義に対する懐疑がある。左翼は平等、労働条件の改善、社会保障、福祉、平和などを追求する場合が多いんだ。左翼は総称であってね?非常に幅広い潮流を含んでいる。たとえば目標とする国家については、市民や労働者の自治を重視するサンディカリスム、政府を否定する無政府主義、逆に国家の積極的な介入を重視する福祉国家、執権党が一党独裁を行うソ連型社会主義などがあるんだ。また変革の方法についても、資本主義の枠内での社会改良主義、議会制民主主義のもとで将来的には社会主義社会を目指す平和革命主義、武力革命を行うべきとする暴力革命主義などがある」  ペインは近くのスーパーで買ってきた缶ビールを飲んだ。 「オマエ、俺が話してる途中に酒なんか飲みやがって」 「暴力は良くないよ。俺は痛いのは嫌いだね?」  ペインは酒のせいで顔が真っ赤になった。 「俺は昔、介護をしてたけどヒドい環境だった。社長たちは高級車を乗り回し、俺たち末端は軽自動車すら乗れないんだ」 「新人なんてみんなそんなもんじゃねーの?」 「老人ホームを爆破してやりたい」  ポーンは勇気を出して言った。 「プルートさん、そんなことしたら罪もない老人たちまでも巻き込みますよ」 「歩兵の分際で俺に意見してんじゃねーよ」
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