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「ちょ、な、なにするんですかっ。」
持っていかれそうになる自分のお弁当箱を引き寄せる。
「こういうの苦手なの?箕輪さんは。」
左手には私のお弁当箱。
右手にはキラキラとイクラが光る海鮮弁当を持ち上げ課長が聞いてくる。
「いえ。」
寧ろ、目が無いです。
そして海鮮弁当を買うお金も平日の昼食に大金を叩く勇気も無いのですが…
と、そこは心の中で呟く。
「じゃあ、問題ないよね?」
呆気に取られているうちにあっという間に私の目の前に海鮮弁当を置き、
そしてそのまま、私から取り上げたお弁当箱を私の隣のデスク置くと座って食べる体制を整えだした。
「えっ、ここで?」
いけない。
心の中で呟いたつもりがつい声に出てしまった。
「そんな意地悪言わないでよ、箕輪さん?」
言葉とは裏腹に大して気にもしてない風に言う課長。
「いえっ、すいません。決して意地悪とかそんなつもりでは……えっと、急なことに驚いてしまって。」
「んまっ、この卵焼き。」
一人テンパってる私を他所にもう勝手に人のお弁当食べてるし。
「ほら、早く食べないと休憩時間終わるよ。」
「あっ、はい。」
課長のペースにすっかり乗せられ目の前の海鮮弁当を慌てて頬張った。
旨っ。
この旨さに秒で泣ける。
「あぁ、旨かった。料理上手なんだね、箕輪さん。」
空っぽになった私のお弁当箱を片付けながら課長が言う。
「上手とか…、いつも適当に作ってるだけです。それより、こちらこそありがとうございました。とっても美味しかったです、海鮮弁当。」
さすが北の大地が誇る食材。
プリップリとしたイクラの粒が食べるごとに口の中で弾けて夢見心地で完食した。
「箕輪さんの顔を見れば分かるよ。」
「嘘っ。」
そんなにも美味しいと言う思いが顔からダダ漏れていたのだろか。
うん、漏れていたな。
咄嗟に恥ずかしくなる。
私の様子を見て課長がクスッと笑いながら言う。
「喜んで食べて貰えて良かったよ。俺、実は苦手でさ、イクラ。」
あっ、それでか。
突然のお弁当交換の謎が漸く解けた。
「ああ、苦手だから。」
それだとお弁当の交換もしたくなるはずだと一人納得していると、
「それで、さっきの質問の答えは?」
と、聞いてくる課長。
「質問?」
一つ謎が解けたのにまた新たな謎が出来てしまった。
「最初に聞いたじゃん。彼氏にもいつも飯、作ってんの?って。」
ああ…それね。
何かそんな事を言ってたよね。
「いえ、作りませんよ。」
「そうなの?」
「ご飯作って彼氏に食べて貰うとかそんな経験ないですし、そもそもそんな人自体、いたことないので。」
何故に職場にて、しかも苦手な上司にこんなカミングアウトをしているのだ私は。
「えっ、でも、昨日、彼氏んちに来てたんじゃないの?」
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