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「あっ、課長………」
うちの会社が毎週月曜日をノー残業デーとして早、三週間が過ぎた時、私は自分の住むマンションの一階エントランスにて上司である住吉課長に出くわした。
「箕輪さん、ここで何してるの?あっ、もしかして彼氏宅訪問とか?」
な訳ないじゃん…
私はこういう事を何ともなしに言ってくる我が上司であるこの人の事がちょっと苦手だったりする。
こういう事を、と言うのは彼氏うんぬんの件だ。
なんでここが私の住処だと素直に思わないのかな。
いや、単純にからかって面白がってるだけだよね。
だから他の女子社員なら何ともなく通り過ぎてゆく会話だ。
現に彼氏宅訪問の人もいるだろうし、その言葉を洒落と捉え気の利いた返事を返したりもできるだろう。
ただ、私はそのどちらも返す事が出来ないのだ。
彼氏がいる訳でもなく、いや、これまでいた事もなく、そして気の利いた返事を返すセンスを持ち合わせてもいない。
エレベーターの到着を待つ間、妙な沈黙が流れる。
て言うか、そもそも課長こそどうなの?
なんで、この場所にいる?
住んでる訳じゃ…ないよね?
「あっ、俺はね、俺の帰りを愛しの彼女が待ってるんだよねぇ…って、乗らないの?」
私の疑問を読み取ったのか聞いてもいないのに課長はそう答えつつ開いた扉を押さえエレベーターに先に乗れと顎で催促する。
「すいませんっ、用を思い出しました。課長、お先にどうぞ。お疲れさまです。」
我が上司との会話に一秒でも早く終わりを告げたくて早口で言うと、同じエレベーターに乗ることを断りその場を急いで後にした。
マンションから数メートル歩いた所でくるりと踵を返し、エントランスまで急いで戻って来るとエレベーターが止まっている回数を何気に確認する。
「6階かぁ……」
私はエレベーターのボタンを押し、速やかに到着したそれに乗り込むと数字ボタンの5を押した。
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