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玄関のドアを開け、部屋に入ると辛うじて存在する廊下を進みまた一つ扉を開ける。
三畳ほどの狭いキッチンを抜け、そしてさらに奥の部屋へ。
ベッド際のサイドテーブルに部屋の鍵を置き、そのままベッドに転がった。
うがい手洗いをしていない事やスカートが皺になるだろうなと思いながらも中々動く事も出来ず、先程から急に私の頭を占拠し始めている言葉を声に出してみる。
「なんで課長が居たの?」
そう、なんで?だ。
なんで仕事を終えてしかも憂鬱になりがちな一週間の始まりである月曜日になんで、苦手な上司と自宅マンションのエントランスにて会わなきゃいけないの?
あっ……確か、可愛い彼女が待ってるって?
なるほど、ここに住んでる訳じゃなく彼女の家に来たという事か。
しかも6階。
何ともなしに天井を見つめ溜息を一つ吐いた。
私はどうも我が上司である住吉課長が苦手だ。
そもそも訳あって昔から…男の人に対して苦手意識を持っている。
だからできる事ならとなるべく女性の多い職場、デパートで働くことにした。
なのに、配属されたのはーーー
その職場で私の上司となったのが住吉課長。
住吉課長は誰に対してもその役職らしからぬフレンドリーな態度で接してくる。
先程のエントランスでのやり取りのように。
ああいう風に踏み込まれてくると私としては引いていくばかりで更に課長との間に距離が出来てしまう。
社会人として働くようになり私も今年で8年目、つまりは大卒で働きだした私は今年、三十路を迎える。
いくら男性に対して苦手意識があるとはいえ、人並みに結婚願望も多少はあったりする。
とは言え、この歳まで男性経験もなく来たと言うのは世間一般からしたら信じ難く偏見の眼差しをぶつけたくなるかもしれないけれど。
私自身はここまで来たのだから、逆に焦る必要もないかなと思い始めている。
けれど両親は私が男の人が苦手だと理解しつつもさすがに三十路が近づいてきた頃から結婚を催促するようになってきた。
だからといってこればかりは相手があってのことだし思うようにはいかない。
男の人に対しての苦手意識も治ってはいないし。
だから近頃ではもう、ここまで来たんだから一層、白馬に乗った王子様が現れるまで待ってやろうじゃないか、なんて頭からお花が飛び散りそうな事を考え現実逃避をするようになっている。
先ず、そんな王子様は絶対に現れないと思うけど。
それでも私はそんな人生でも悪くないと思いたい。
男の人と無理にどうこうならなくても…
恋愛なんてしなくても…
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