370人が本棚に入れています
本棚に追加
「面白い声出すねぇ、まるでショッカー?だよね、箕輪さん。」
そう言いながら自席に鞄とビニール袋をドサッと置いて座る課長。
「ショ、ショッカー?」
「そっ、ショッカー。」
ショッカーがなんなのか気になるところだけれどこれ以上、それについての会話を広げたくない。
「お疲れさまです。帰社予定でしたか?」
突然の課長の登場に動揺して、さらっと先程彼氏に飯を云々と言われた事に否定する間も無かった。
課長、今日は確か午後もずっと外出ってホワイトボードに…
それとなく入り口付近にあるホワイトボードに目を向ける。
「うん、ちょっと予定変更でね。」
そう言いながらデスク上に何やらビニール袋からガサゴソと何かを取り出す課長。
「あっ…」
少し離れた所からでもその赤く透き通った粒の山が何なのか直ぐに分かり、つい声に出して言ってしまった。
今の声、聞こえただろうか?と思った時には課長から返事が返ってきた。
「豪華でしょ?海鮮弁当。」
あまり気乗りしないけれど、上司を無視する訳にもいかないし、当たり障りなく会話を続ける。
「並んだんですか?」
確か海鮮系のお弁当は物産展でも人気で並ばなきゃ買えないはず。
「いや、事前に注文しておいたんだ。立川工業の会長からの注文。ランチミーティング用に20個、さっき届けて来たところ。っで、一人欠席になったからって会長が俺にね。」
「そうなんですか。」
立川工業は昔からの上顧客で、今は住吉課長が担当している。
聞いた話だと課長が新人の頃に初めて受け持った顧客らしい。
本来なら立川工業クラスの顧客になるとその担当はベテラン外商員が受け持つのだけれど、
少し気難しい所のある会長は当時、上司について来ていた住吉課長を何故か気に入ったらしい。
それ以来、立川工業は課長がずっと担当している。
会話が一段落した事に少し安心した私は今度こそこのままさっさと食事を済ませてしまおうと思った。
この空間で苦手な上司とご飯とか微妙すぎるシチュエーションだ。
普段だとこの時間帯は、ほぼ私一人なので周りなど気にすることもなくお弁当を食べるけれど
比較的近い距離に誰かがいると言うだけで、意味なく緊張して中々箸を付ける事が出来ない。
ちょっと動く度にやたらと音が響いてそれが私の意識を高めてさらに気になる。
「あのさ。」
私がもたもたしながらも卵焼きに漸く箸を付けた途端、課長から声が掛かった。
「はい、なにか?」
一旦、箸を置き課長の方を見る。
すると、課長がイクラが溢れそうなくらい盛られた弁当の折を手に持ち私のデスクにやって来る。
な、なんだ?
思わず身構える。
そんな事を知ってか知らないのか、お構いなしに課長はデスクに座る私の横に立つと
「悪いんだけど、交換して貰えない?」
と言う。
「えっ?」
言ってる意味が理解できず、やたらと瞬きをしてしまった。
「うん、だからさ、その弁当とこれ。」
「これとそれ、ですか。」
「そうそう、これとそれ、ね。」
と、言いながら勝手に私のデスクに海鮮弁当の折を置き、私のお弁当箱を取ろうとする。
最初のコメントを投稿しよう!