星降る夜に

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「昴、ピクセンの人がもうすぐ駅に着くって連絡寄越したぞ」 「わかりました。迎えに行ってきます」  他人事のように言う支配人に言い残し、車を出す。支配人は村役場からの天下り組で実務にはほぼ携わらない。そんな不条理な環境に不満も感じないぐらいには、もうこの職場にも慣れた。  ピクセンは望遠鏡の販売などを手掛ける光学機器メーカーだ。今回の〈スターウォッチング〉に講師を派遣してくれて、子供向けの星空観察教室を行ってくれるのである。  僕が父とともにふたご座流星群を見に来た時から十年以上が経ち、世の中は大きく変わっていた。天体観測の愛好者は高齢化が進み、毎年参加人数が減りつつある。変わって体験型学習への需要が高まりつつあるせいか、小さな子どもを連れたファミリーの姿も見られるようになった。  ステージイベントの内容も著名人や専門家のトークイベントと、どちらかというとマニア向けだった以前とは異なり、より幅広い年代から参加者を呼び込もうとファミリー向けのイベントに変わった。ピクセンのようなメーカーもまた右肩下がりの関係人口を増やそうと、そういった啓蒙活動には喜んで協力してくれた。
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