星降る夜に

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 彼女は遥、と名乗った。僕より一つ上の中学三年生だった。慌てて敬語に直そうとする僕に「気にしないで」というぐらいには、彼女の方が少しだけ大人だった。  遥のお父さんも天体観測が好きで、彼女自身も星に興味があるのだという。最もそれも最近の話で、少し前までは一旦喋り出すと止まらなくなる父親の星空談義には辟易していたのだそうだ。 「じゃあ、どうして今になって」 「もうすぐ受験だから。進路決めなくちゃならなくなって、やりたい事って何かあるかなぁって考えたら、やっぱり星が好きかもって思ったの」  だから星について学べる大学を目指すために、進学校を受験するのだという。 「受験ってことは、もうすぐ試験じゃん。こんなことしてて大丈夫なの?」 「だから息抜きも兼ねて来たんでしょう。流星群の観察なら勉強も兼ねてるし。面接の時にも行ってきたって言えるじゃない」  そう言って笑う遥は、余裕そうに見えた。きっと頭の良い子なのだろう。  不思議なことに、当時学校では誰とも話すことができなかった僕は、こうして初めて会った彼女とは普通に会話ができるのだった。これは僕にとっても発見だった。  もう学校の同級生なんて見たくもないし、彼らと口を利くなんて考えるだけでうんざりで、そして実際に向き合ったとしても何も言葉は出てこないはずなのに。
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