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岩だらけの荒野を黒くて大きなバイクがガタガタと走っている。
周りには東に昇ったばかりの太陽と、筆についた絵の具を洗ったような水色に鼠色の塊がときおり混じった空。
その雲は行く当てがないかのように立ち止まっている。
気温は丁度いいが乾燥していて、地面はまるでカナヅチで叩きまわったようにひび割れていた。
そんな人工的なものは一切ない荒れた大地を走るバイクの見栄えは悪い。
ボディは黒のはずだが砂ぼこりで所々白くなっていて、はっきり言うと汚い。
加えて流線形のサイドカーがついていた。
「ねえシキ、人がいるよ」
黒髪の青年がアクセルを緩めつつ、顔をしかめてしかし穏やかに言った。
「たしかにいるな、ユウリ。それも二人」
サイドカーから面倒臭そうな声が返った。
こちらも運転席と同年代の青年。
み空色の髪をバイクの振動に合わせて揺らしながらどこか眠そうな表情をしている。
「僕たちのことじゃなくて。そっちから見えない?」
サイドカーは背が低い。当然運転席とサイドカーでは視界が異なる。
「見えないね。貧乏性には見えるのか?」
「そうだね。殺人鬼には見えないのかも」
と、サイドカーに乗るシキと運転席に跨るユウリの二人がいつも通り罵りあって、
「何人だ? 俺らと同じで旅しているヤツか?」
とシキが訊いた。
「一人みたい。いや……荷物、なにも持っていなさそうだよ」
「こんな荒野に一人、か。変だな。次の町までこのバイクでも五日はかかるぞ」
「あ、こっちに気がついた。手を上げて振っているみたい」
「横断歩道でも渡りたいのか?」
「たしかに道が整備されていれば楽なのにね」
言いつつユウリは「で、どうする?」と目で訊いた。
「んー……。向こうが手ぶらなら取って食われることもないだろう。しかも二対一だ。俺らが目指している次の町の情報を持っているかもしれない」
「そうだね、わかった」
ユウリがアクセルを少し捻って、エンジンは回転を上げた。
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