10人が本棚に入れています
本棚に追加
男は慌てながらも要領よく話をした。
ユウリとシキが向かっている町の住人だったということ。
詐欺グループのリーダーで、それが露呈し有罪になったこと。
今まさに罰を受けている最中であること。
背中に時限爆弾をつけられて荒野に置き去りにされたこと。
押収されていない隠し財産が町から西にいったところに埋めてあること。
「要するに死刑ってことか」
とシキが頷いて、
「でもなんで打ち首とかにしないんだろ。そのほうが確実なのに」
とユウリが首をひねった。
「町の法律のことなんてどうでもいいでしょう。それより早くスイッチを止めてください」
あと五分という男の言葉が本当ならもう時間がない。
「まあおっさん。そんな焦るなよ。これはただの死刑じゃない。残された時間で後悔と恐怖を感じさせるためにあるんだ」
「……そう考えるとけっこうエグいね。これ」
「俺は結構いいアイデアだと思うぜ。これを見た誰かがその町で犯罪に手を染めなくなるという抑止的な効果もある。直接的に手をくださないから執行人の気は楽になるだろうし、死体は獣に食われてくれる。死体処理ってのは重労働だ。そう考えればみんなが幸せになれるいい方法ってことだ。それに」
「あ、あのっ!」男の叫び声が荒野に轟いた。「――お、お願いします。もう時間が、時間がありません……!」
言葉を遮られたシキが男を睨むようにみた。
一瞬の静寂。
ふう、とシキが息をゆっくりと吐く。そして言う。
「冗談だ」
「……え?」
「安心しな。それ、ただのキッチンタイマーだ。目には目を歯には歯をって言葉、知っているか?」
「なるほど。詐欺師には、詐欺だ」ユウリが手をポンと叩いた。
「……爆弾、じゃないんですか」
「ああ、おっさんは騙されたんだよ」
騙された。
それを聞いた途端、男は空気の漏れた風船のようにふにゃふにゃと膝から地面に落ちてなにも言えなくなった。よほど怖かったのだろう。
シキは「助けたから財産はもらう。その代わりに」と少しばかりの食料を置いた。貧乏性のユウリは反対したがシキが押し切った。
そして何事もなかったかのようにシキはサイドカーに乗りユウリは運転席に跨って、鳴りやまないカチカチという人工的な音をエンジン音がかき消した。
バイクは機嫌がいい猫のように走る。
スピードを緩めず振り返りもせず、二分ほどまっすぐ進んだとき――
二人の後ろから、大きな爆発音が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!