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「あーあ、食料勿体なかったなー。にしてもキッチンタイマーはないんじゃない?」
ユウリがエンジン音に負けないように言った。
バイクは相変わらずの調子で晴天の下を走っている。雲は消えていた。
「あの世で食料と一緒に楽しく料理できるように、せめてものジョークだ」
「さすが殺人鬼」
「俺が生きていると周りで勝手に人が死ぬだけだ」
「助けることも出来たんじゃないの? スイッチを止めるだけだったんでしょ」
シキは後頭部に両手をあてて、脚を組んで前に放り出した。
「助けただろ。迫りくる死の恐怖から」
「どっちが詐欺師なんだか」
「俺たちがなにもしなくてもあのおっさんは死んでいたんだ。それにユウリは隠し財産をしっかり貰う気だろ?」
「そりゃ誰も使わないならね」
シキがサイドカーのなかでわかりやすく肩を竦める。
そして空を見上げながら言う。
「俺だって出来れば助けてやりたかったさ。でもあのおっさんを助けたら――」
「そうだね。あの人を助けたら町の法律に介入することになる。あの男に騙された人に露見したら反感を買うだろうね。僕たちは命を狙われるかもしれない」
「命は大切だが、平等じゃない。一番は自分の命だ」
「人を助けるのは難しいね」
「殺すのは簡単なのにな。ま、それになにより」
「なにより?」
「――あのおっさんを助けたとしても、このバイクは二人乗りだからな」
サイドカー付きのバイクはいつ間にか吹きだした風に煽られながら次にいくはずだった町の西側を目指して、二人以外に誰もいない荒野を走っている。
やけにうるさいエンジン音だけが辺りに響き渡っていった。
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