夏祭り

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夏祭り

 ひとつ年下の俺の恋人がなんだか急にオトナっぽくなってきたものだから、最近はドキドキさせられる事もしばしば。  それが、嬉しくもある反面。  ......本人は全く気付いていないだろうが、俺の知らない所で恋敵(ライバル)たちを大量生産しているであろう事は想像に難くないため、ちょっと落ち着かへんし気に入らん。  大学生と、社会人。  去年までとは形を変えたその関係を、彼女がめっちゃ不安に感じとる事も、ホンマは気付いとる。  もしかしたら彼女は俺ではなく、同じようにまだ大学に通う男と付き合った方が楽やし、幸せなのかも知れへんって事も。  けど、ごめんな?  生憎俺は心陽(こはる)の事を、手離してあげるつもりは無いねん。 *** 『ほな明日は、三時半に駅前集合な!』  いつも俺は彼女に、ちょっとした事でも電話を掛けてしまう。  SNSを通して、一行メッセージを送れば済む程度の用事でも、だ。  心陽は俺の事を、ただのおしゃべり好きな男だと思っているようだけれど、そんなんちゃうよ?  そんな単純な理由だけの、はずないやん。  それなら心陽相手じゃなくても、別に構わんやろ?  では何でいちいち電話なんていう、煩わしく感じかねない行為を選択するのか?  そんなん、答えは簡単や。  ......何かしら理由をつけてでも、彼女の声が聞きたいからに他ならない。  なのに何でそんなに、不安になるかな?  ......お前が思うより俺は、心陽に溺れまくっとるっちゅうねん。 ***  夏祭り、当日。  駅前で彼女の姿を見付けた瞬間、心音がドクンと跳ねた。  キャラクター物のTシャツにジーンズといった感じの、ラフな組み合わせの服装を好むボーイッシュな彼女の、艶っぽい浴衣姿。  普段は無造作に下ろされたままの髪を綺麗に結い上げているせいで、いつもは隠れている(うなじ)がちらりと覗くその様は、卑怯なまでに色っぽい。  予告もなしに、これはズルい。  ......こんなん、反則やろ。  声を掛ける事も出来ないまま、しばし遠巻きに、その姿に見惚れた。 「先輩!」  そんな俺の姿を発見し、愛らしく片手を挙げて、心陽はいつもみたいに無垢で愛らしい笑みを浮かべ、慣れない下駄なんてモノを履いている癖に俺に向かって駆け出した。  だから俺も、さも今気が付きました、みたいな顔をして、笑顔で彼女に手を振った。 「危ないって、心陽。  転けたら、怪我すんで?」  クスクスと意地悪く笑い、手を伸ばしてワシワシと頭を撫でた。  すると心陽は少しムッとした様子で唇を尖らせ、不満げに告げた。 「......先輩。子供扱い、やめてよ。  あと折角綺麗にしてきたんだから、髪に触るのも禁止!」  幼さを残す仕草とその言葉に、ちょっとだけホッとして。  ......いつもみたいに彼女の手を取り、そっと繋いだ。
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