『山田くん』

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「春乃、宿題はしたのか?」  何時もの男の子の声がする。少女の胸はトキメク。生まれて初めて恋をした。  春乃は7歳だ。だから自分の部屋を与えて貰ったばかり。兄弟姉妹はいない。それなので六畳の部屋を独占している。春乃には大事にしている人形がある。女の子が人形を好きなのは当然かもしれないが、その人形は精巧なフュギュアだ。名前を『山田くん』という。  『山田くん』はお父さんがボーナスから大金をはたいて買ってくれた。この人形は世界でもレアなフュギュアで小さいながらも人間みたいに動く。茶色い髪はサラサラで目も薄い茶色だ。肌は白くきめの細やかなゴム製だ。しかも見かけがいいだけじゃない。少年のような高い声で喋ることも出来るのだ。だから春乃が気に入るのも当然だ。  今日は日曜日、『山田くん』は部屋の絨毯の上に置いてあるクッションにもたれて足を組んでいる。手足が長いからそんなポーズもカッコいい。春乃はポーっとする。 「春乃、もう4時だぞ」 「本当だ。宿題しなくちゃ」  『山田くん』は今の時間を教えてくれるのと決まった言葉を繰り返し喋る。「宿題したのか」「歯は磨いたのか」「顔は洗ったのか」そんなことしか言わない。説明書では数千語も覚えさせていると載っていたが、そんなに喋ったことはない。たぶん、人工知能が記憶しながら喋っているのだろう。
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