茶久 亜希子

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茶久 亜希子

目の前で、失神した女を吊るした。 家の梁に掛けた縄で、てるてる坊主みたいで愉快。 事切れる前、ビクビクと痙攣して失禁したのが殊更面白くて。 私はその様子をじっと見ていた。 「あんたも馬鹿だわ」 死体になった恵理子(エリコ)に語りかける。 「他人の家を荒し回るのが、オカルトマニアの楽しみ方なのね」 そう、ここは私の家。 十二年前に家族はここで殺された。 「お父さん、お母さん、おじいちゃん……江里子」 字は違うけどね、彼女と同じ名前なの。 だから少なからず愛着もあったんだけどなぁ。 「最低だね、あんた」 人の家をさ、心霊スポットって。 面白がって。こんなに汚して。壊して。 「こんな人形なんて、なかったよ」 江里子はまだ赤ちゃんだったから、これから沢山可愛い玩具もぬいぐるみも買ってもらえただろうに。 私が友達の家にお泊まりに行って、帰ってきたらみんな居なくなってた。 きっとその時、ここはこんなに血まみれだったんだろうね。 怖くて怖くて苦しくて痛くて。みんな、悶えながら死んだんだろう。 ――でも今さら、血が残ってるわけないじゃないの。 そこまでして私を怖がらせたかったの? 「窓ガラスまで割っちゃってさぁ。酷いよ」 いつもこう。 廃墟だか心霊スポットだか知らないけど、勝手にこうして他人が入ってくる。 「忘れたい訳じゃない。ただそっとしておいて欲しいだけなのに」 犯人が憎くて仕方なかった。 今頃もまだ、死刑囚として塀の中だろう。もしかしたら、一生執行されないかもしれない。 でも。 「今じゃ、あんた達が憎くて仕方ない」 遠くで、犬の遠吠えが聞こえた――。
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