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※※※
それはきっと手入れされていたら、相当大きな家だったのだろう。
日本家屋。あたしにとってはなんだか神棚みたいって……そう口にしたら、アキコは苦笑いした。
「うわぁボロボロじゃん」
まず門扉がすごい。大きくて、そのくせ今にも腐って崩れそう。
「まぁ十二年も前から、放ったらかしみたいだしね」
アキコの言葉にごくりと唾を飲む。
雰囲気は充分だ。外から見ても分かる、荒れ放題に伸びた草。
無惨にも時の流れが、この凄惨な殺人現場をいっそうおどろおどろしいモノに変えている。
しかしあたしが緊張しているのは、この雰囲気にのまれたからでは無い。
「エリコ、何してるの」
「ん。撮影準備」
スマホを取り出し動画モードにしてると、鋭い声がかかる。
――何を今更。ただの肝試しじゃつまらないじゃないのよ。
そう言ってやると今度はため息。
「別にデカいカメラを構えてってワケじゃないのよ? でもせっかく来たんだから、記念撮影くらいはしたいじゃないの」
あたしがよく見ている動画サイトでは、こうやって心霊スポットに行く様子をスマホから気軽に投稿できる。
コメント欄にはその勇気を称えるものや、幽霊が写ったとか写らないとか。そんな他愛のないやり取りであふれる。
それがまた、面白い。
「✗✗✗✗年、✗月✗日、✗時。F県O市のとある廃墟に来てまぁす 」
自らの声を入れる。
顔なんてのは映さない。くだらないYouTuberじゃないんだから。
「ここは十二年前、一家惨殺事件の現場。そこをお散歩してみようと思いますね」
『お散歩って……』と呆れた呟きが聞こえたが、構わない。
いいの。あたしのコンセプトは、夜のお散歩。
気軽に心霊スポットを歩くってやつだから。
――じゃ、行こうか。
さすがにアキコの事は映さず、表情だけでそう告げると諦めたような顔で彼女は頷いた。
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