エリコ

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玄関をあがって先に行けば板の間、そして台所や風呂場があったり。 それとその前左に廊下があって、和室が数部屋に洋室が一つ……まぁそんな家だ。 二階にはいわゆる離れとして和室が二部屋ほど。 そして今いるのは、いわゆるリビング。 ――なんでそんな事を知ってるかって? 事前の下調べってやつよ。それもせずに飛び込んで行くほど、あたしはバカじゃないっての。 「あ。けっこう物あるね」 家財道具やら装飾やら。結構残ってる。 さすがに生活感はないけど、雑然と荒れ果てたそこには心做(こころな)しか人の気配めいたモノが漂っている気分になるからすごい。 「ええっとぉ、だれかいませんかぁ?」 軽い感じで呟きながら、色々と写していく。 もちろん、ちゃんと実況もしながらだ。 「ホコリっぽいねー。ま、仕方ないか」 「ちょっとエリコ」 後ろをピタリとついてきているアキコは、すっかりビビってるみたい。 ――ふふっ、なんかいい気味だわ。 いつもいつもクールぶって、なにかと上から目線なのが気にかけ食わなかったのよね。 顔も悪くないくせに、男に媚びませんって感じなのもムカつくし。自分は誰より頭が良いみたいに振る舞うのも、許せなかった。 「大丈夫大丈夫。単なるボロいだけでしょ。あ、人形みっけ。うわぁ、きったなーい」 多分元は白かったのだろう。よく見るキャラクターもののぬいぐるみ。すっかり薄汚れて、彼女に持たせた明かりに照らされてもその小汚さは分かる。 「これなんて千切れてんじゃん」 ポイッとぬいぐるみを放り投げた。 「エリコ!」 「あははっ、ビビり過ぎだってばぁ。それより、ちゃんと明かり照らしてよね? お、なんか発見」 倒れたテーブル。 割れたブラウン管テレビ。 破れて中身の飛び出た長椅子。 ガラスの破片が散乱した床は、窓ガラスが割れたものだろう。急ごしらえのように、新聞紙がガムテープで貼られている。 「ひどい」 小さな声が後ろから聞こえた。 「これ血の跡じゃないかな」 「え?」 散乱した物の上をライトで照らせば、浮かび上がるどす黒いシミの数々。 それらは広範囲に。 まさに飛び散った血の跡のようだった。 「確かここの家の人、刺殺だったよね」 「!」 いちいちビクついてくれる。 あたしは丹念に室内を撮影すると、怯えた顔の彼女を振り返った。 「怖い?」 「……別に」 懐中電灯の明かりがまぶしかったのか、アキコは目を逸らして答える。 ――顔色、悪いわね。 そう揶揄おうかと思ったけど、やめといた。 「次、行こうか」
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