次回予告

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「俺、ビールて言うたのに」  ああ、外の池でコイが鳴いているようだ。 他には何も聞こえない。 「実は、寝る前に笹島から電話があってな」 「笹島さま……と仰いますと、本町の?」 「そうじゃ。笹島の嫁さんからな」  笹島家というのは、この市岡家とは遠い縁続きにあたる家である。  郊外にある市岡家とはちがい、市内の一等地に家を構える笹島家は、県内においても指折りの資産家だ。  多数の事業を経営し、土地を持ち、その資産は計り知れない。  先年、赤石市に出来た巨大ショッピングセンターの敷地も、笹島家所有のものだったと聞いている。 「ああ、あの金持ちの家な」  二ノ宮が、いかにも訳知り顔で頷く。  ……なぜ貴様ごときが知っているのか。 不可解には思ったが、別に理由を知りたいとは思わなかったので、聞かなかったことにした。  二ノ宮のパーソナリティなど、どうでもよい。 「そう、お金持ちのなぁ」 「その金持ちの家がどないしてん」 「どうも、電話をかけてきた者の話が要領をえなくてなあ。  詳しいことはよくわからんのじゃが」  旦那様は、首を捻る。 ご自身も、あまりよく理解されていないのかもしれない。 「かけてきた跡取りの嫁さんが、言うにはな。  笹島の双子の片割れが、突然いなくなってしまったと」 「は……。いなくなったとは……誘拐か何か、でしょうか?  笹島さまの家は、たしか双子のお二人がそれぞれに後を継ぐことになっていらっしゃったのでは?」  資産家がいなくなる、とくれば誘拐あたりしか心当たりがない。 旦那様は難しい顔をなさって、ゆるゆると首を振られる。 「それがそういう訳でもなさそうでな。  ……しかしどうすればよいか、指示をしてくれる筈の旦那がおらんということで。  縁筋のうちに助けを求めてきたちゅう訳じゃ」  旦那様は深くため息をつかれた。 「それでのう……藤堂君。わしの名代ということで明日、笹島の屋敷に様子を見に行ってやってもらえんじゃろうか」 「――承知いたしました」  旦那様の仰せとあれば。 「ニイッチャンと一緒に」 「お断りいたします」  旦那様の仰せであっても。 「一瞬でも躊躇えや、断んな」 「なぜ、このような男を連れて行かなければならないのでしょう。理解に苦しみます」  文句を言う二ノ宮は無視する。 が、旦那様が困惑したようにされるのは、大変心苦しい。  しかし何とか、考え直していただけないだろうか。  私はこんな男と同行して、自分の中の殺意が抑えきれる自信がないのだ。 以下、秋以降に公開予定 都市伝説調査官の事件簿-case.2座敷童子の棲む家- に続く。
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