一章

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「そか……。ありがとう」  幽霊否定派の発起人としては、なんだかじーんとしちゃうな。 馬鹿にしないで信じてくれてありがとう。 思わず、御礼なんか言っちゃう。  すると薬師寺くんが、ぱかっと明るく笑った。 「じゃ、トメコちゃん捜索のための腹ごしらえして頑張らなくちゃな!」  ほんと、この人憎めないタイプだなあ。 「うん、まずは食事にしよう」  皆もそう思ったのか、どこか和やかな空気が流れる。  それではと、全員がうきうきと食事の仕度に取り掛かろうとした時だった。 「お前ら、ここで何してんねん」  不意に、そう間延びした調子の声を掛けられて、僕らはそちらを振り返った。  駐車場の入り口から、こちらに向かって、怠惰な足取りでやってくる長身の男の姿が見える。  眼鏡に少し茶髪っぽい癖っ毛。 くたびれた感じのジャージ上下。 よくよく見れば素材的には、それなりの男前で、年齢も僕らとさして変わらないようなのだが。  さして変わらないというか、むしろ、すごく若くないだろうか。  見た目だけならば十代に見える。 ただ、足取りのだらだらとした感じといい、何か、おっさんぽい。  それが奇妙に違和感のある男だった。  纏う空気というか、雰囲気というか。 そういったものが、そう………妙に年寄り臭いせいだ。  おかげで全員が気を呑まれてしまって、歩いてくる彼を見守る形になった。 なんだなんだ、この人。 「何って……見ての通り、キャンプしにきたんですけど……」 「ここ、私有地やで。ちゃんと許可とってるんか?」  ジャージ男はやっぱり間延びしたような調子で、さらりとそう言った。  僕はといえば、その言葉にさーっと血の気が引くような思いがして硬直する。  ……そうだ。言われてみれば、そうなのだ。 ここって誰かの所有している土地で、勿論だが、勝手に入ったりしちゃいけないし、勝手に使うのも勿論ダメだ。  そんな初歩的な事を、忘れてたなんて……! 「許可とってへんのか。あっそ。そら難儀やな。……どないする?」  ジャージ男は腕組みをして、ぐるりと僕らを見回すと、うっすら笑った。 「警察、突き出したほうがええ?」  冗談ではなさそうな男の言葉に、僕らは全員が青くなったのだった。
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