二章

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 さんざん飲み食いして満足したのか、二ノ宮は言うなり立ち上がった。 ちなみに椅子は人数分しか用意していなかったので、当然のように僕は一人、立ち食いだったのである。 「え、い、今からっ?」  僕まだ、食べてる途中なんですけど。 「はよ行かんと、日ぃくれてまうやん。爺さん、年寄りやから寝るの早いねん」  二ノ宮はもう、振り返りもせずに歩き出している。 どうしよう、と周囲を見回すと気の毒そうに僕を見上げてくる皆の視線とかちあった。  ああ、うん……。 行って来ればいいのね……。 確かに、主催者のお仕事ですよね。  がっくり肩を落とし、手にしていた紙皿と割り箸を脇に置いて、二ノ宮に渡し損ねた肉のパックを抱えなおす。 「じゃ、ちょっと行ってくる。ごめん、あとのこと頼むね」  それと、肉、残しておいてね。 心の中でそっと呟いて、僕は二ノ宮の後を追って走り出した。  二ノ宮はやっぱりどこか怠惰な足取りで、駐車場から公道へと続く道を歩いていく。 どう見ても遅いそれに、なかなか追いつけないのは、僕と奴との歩幅の差のせいらしい。 追いついても、少し小走りになりつつ横を歩く。  二ノ宮は公道に出ると下りになる方を選んで、ふもとの方へと向かった。 時々、山越えする車と擦れ違ったりするが、人の通りはほとんどない。  合宿所があるのは山の中腹より少し上の辺りなので、このあたりには人家も見当たらなかった。 「その方の家って、どのあたりなんですか?」 「この道下りきったとこらへんやな。来る時、見えへんかったか?ちょっと道をはいったとこに、でっかい御屋敷あったん」  言われて、記憶をたどってみる。 たしか何かの施設のような大きさで、白い塀に囲まれた建物が見えたのを覚えている。 あれって個人の屋敷だったのか。  古民家をリノベーションして、なんていうのが昨今の流行だから、ああいう日本家屋ならテレビ番組なんかで見慣れているけど、ああいったものとは印象がかなり違う。 武家屋敷、とか。 そんな感じのする建物だった。 「塀がずーっと続いてる、やたら広そうな建物なら、見たような……」 「それやな。古くから続いとる大地主や。このへんの土地のほとんどは、あの家がもっとる。まあ、ほんまもんの金持ちで、成金とちごてケチくさいとこない爺さんやから、安心しとけ。ちょっと煩い番頭もいてるけどな」 「番頭……?商売とか、されてるんですか?」  番頭っていうと、時代劇で出てくるあれだろうか。 知識の限界がそのへんだったので聞き返すと、二ノ宮は少し考えるような顔をしてから。 「番頭いうんは……今の言い方やと……。……………執事?」  執事とかメイドって、喫茶店にしかいないものだと思ってた。 言った本人の二ノ宮の語尾が疑問符ついてるくらいなので、微妙に違うんだろうなというのは理解できたが、なんにしても僕たちのような庶民には、程遠い存在のようだ。  パックの肉程度は、手土産として有効なんだろうか。 少し不安になりつつも、二ノ宮についていくと、アスファルトの公道を逸れて、舗装されてはいるが少し細くなった道に入っていく。
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